21 ラーチャン事変

 最寄りのT大前駅迄来て、線路沿いに左へ曲がった。

 そこからは、違法駐輪ばかりが散らかっていた。


「ラーメンがお好きなんですね」

「ん? どうして?」

 二人は狭い道を絹矢先輩を前にして歩いた。


「さっきの『X年』で、ちょっと気になってしまって」

「あーあ。元々、山ん中育ちで魚に縁がないとかってのもあるけど、こっちに来て友達と行くって、ラーメン屋だろう?」

 私は、風間ちゃんともラーメン食べに行かないな。

 学食にもあるけど。


「皆さん、ラーメン屋さんに行くんですね」

 今日は、絹矢先輩だけだ……。

 うん、悪くない。


「さーちゃんはどこに行くの? 実家で食べるの?」

 そっか、知る訳ないか。


「うーん。家庭教師のバイトがある日は、生徒さんのお婆様が出してくださるのですよね。外食する時は、スパゲッティーとか好きですね」

 実家では食べられないとは言いにくかった。

 米は一升ずつ炊くので、臭いが出ても食べないといけないし、おかずは定番の火を使わない料理。

 それでいて、キッチンらしき所が汚いので、殆ど入らない。

 買い物は、出掛けないで組合の通販で二週間分するので、冷凍品か生野菜が多く、私は葵お母様から特別な洗礼を受けている気がする。


「もう着いたよ」

「は、はい」

 ぼけっとしていた。

 店にはラーメン屋らしくない「パラダイス」と言う文字が読み取れた。

 来来軒とかじゃないんだ。


「ばんわー」


 ガラガラ……。


 暖簾をくぐると六席のカウンターと二人掛けの席が二つ。

 そして、入り口には何故か駄菓子が置いてあった。

 何屋さんだろう。

 じいーっと見てしまった。

「うちはね、昼間、ばあさんが、駄菓子屋をやっているんですよ」

 奥から声がした。

「そうなんですか。いいですね」


「ここに掛ける?」

「はい」

 壁際の二人掛けのテーブルに絹矢先輩を真ん前にして座った。

 うわっ。

 真っ正面で近くないですか?

 どきどきはらはら。


「何にする? 俺は元々決まっているから」

「そうなんですか。うーん……。うん、決めました」

「すみませーん」

 さっと絹矢先輩が手を挙げてくれた。

「はいよー」


「何? さーちゃん」

「タンメンお願いします」

「後、俺は、ラーチャンね」

 何してもきらんきらん。

 銀縁眼鏡もいいなあ。

「はいよ!」

 威勢の良い声がした。


 私のどきどきは未だ続いていた。

 絹矢先輩とごはん。

 絹矢先輩と初めてごはん……。


「ラーチャンって何ですか?」

「ラーメンと半チャーハンのセットだよ。パラダイスでは」

「何か、格好良いですね!」

「はは……!」


 ガラガラ……。


「いらっしゃい!」


「ん? 絹矢先輩じゃないですか」

「おう! 」

 お知り合いかな。

「ここに座ってもいいっすか?」

 二人掛け席に椅子を持って来て、絹矢先輩と私の間に座った。

「アニ研の新人さんだよ、夢咲櫻さんだ。こちらが、わっちーこと平泉航流君。三年だよ」

 

「もう頼んだっすよね。俺、ラーチャン!」

「はいよ!」

 

「鬼のT大愛の農場実習からの帰りっす」

「大変だな」

「体使うと腹減るっすよね」


 二人きりの初めてごはんは、な、ら、ず……。

 がっくり。


 でも……。

 やるべき事が……!

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