19 GのX年

 もう曲がり角を少し入った。


「寄ってく?」

 そう言うイエロー先輩に、眼鏡の大人しそうなミナミが一人頷いている。

「うん、行こ、『うさぎや』に行くか?」

 レッド先輩、楽しそうです。

 どこだろう?

 私は、てくてくと後を追った。

「そうだな、『うさぎや』、ストファイのツーが入ったっぽいっすよ」

 じゃがりんの情報である。

「五十円だしな」

 そこは外せないらしい絹矢先輩。

「北口百円だぞ」

 イエロー先輩には、厳しいらしい。

「取り敢えず、『うさぎや』でOK?」

 絹矢先輩が皆を頷かせた。


「えーと……?」

 私は不思議な顔をしていたと思う。

 そこは、ごはんを食べる所じゃないよね。

「これから、ゲーセンに先に寄って行くんだ」

 絹矢先輩に教えて貰った私の困り顔。

 そりゃびっくりだわ。

 小学生の時に六男の夢咲松就ゆめさき まつなり叔父さんに連れて行って貰って、横顔のメダルを大切にしたっけ。

 『大切な小物入れ鳩ちゃん』の小さな引き出しに。

 その位だな、ゲームセンターに行ったのは。


 少しすると、『うさぎや』に着いた。

 やはりゲームセンターらしく、うさぎちゃんはいなかった。

 残念、ぷりちーうさぎ~。


 入り口には、今流行りと聞いた何歳迄生きられるか分かるゲーム機「エックス年」が置いてあった。

「面白そうだけど、誰もやってないんだよな。二百円なんだよ、これだけ。五十円の四倍だろう?」

 絹矢先輩が懐を苦しそうにした。

「占いみたいなものですか?」

 占いに凝っていた私は目を奪われた。

 きらきらーん。

「やってみる? 俺が先にやってみるか」


 コインを入れる。


 カチャリ。


 ――イニシャルと生年月日を入れて……。


 ピピピピ……。


 そうそう、絹矢先輩は三月十一日。


 そして、クイズに答える。


 ――好きな食べ物はどちら?

   A・ラーメン。

   B・刺身。

「えーと……。今はA」

 ふーん、ラーメンがお好きなんだ。


 ――睡眠時間は?

   A・六時間以上。

   B・六時間未満。

「大体、B」

 私も同じだなあ。

 通学中に寝ても眠れた気がしないよ。


 ――タバコは?

   A・吸う。

   B・吸わない。

「Bでしょう」

 良かった、私は喘息もあるし、超苦手。


 ――お酒は?

   A・飲む。

   B・飲まない。

「飲み会があるしな。俺の出身地だと飲めと言われてしまうんだよ。Aか」

 お酒、お好きなんですね……。


 他、数問答えると、最後の選択肢が出た。


 ――どちらの門をくぐりたいですか?

   A・ピンク。

   B・黒。

「何これ? 一応黒が好きだし、B」

 黒のTシャツ着ていらっしゃいますよね。

 本当に黒が好きなんだ。


 ――結果が出ました。


 ピピピピ……。


 下の方から紙が出て来た。

 絹矢先輩が手に取る。


「あ、何か占いみたいですね」

 ゲームセンターは慣れないけれど、占いなら私は楽しかった。

「そうだね」

「何て書いてあるのですか?」

「余命八十年だって。俺、そんなに? 百歳越えるんですけど」

「良いじゃないですか」


「さーちゃんもやる?」

「え? えええええ?」

「どうしたの? 無理しなくてもいいよ」

 せ、生年月日が……。

 それさえなければ。


 ここでいっそ、事情を話しますか。

 取り調べには、ならないと思う。

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