18 渾名で明るく
てくてくてくてく……。
カカッシャーカカッシャー……。
歩いて行く私。
多くのアニ研の方は歩く。
望月君だけが、ケッターマシンと呼ばれる自転車を足で蹴りながらスイッチバック式に進めていた。
「今日は、三年生がいないんだよ」
レッド先輩が横に歩いていた。
名簿で、ザ・スイーズが好きと書いていた。
ザ・スイーズの音楽コント「笑って土曜!」は、視聴率を三十パーセントも取っていた、父の好きな番組である。
共通の話としてしたかったが、直ぐには難しかった。
「そうなんですか。沢山いらっしゃるのですね」
「そうだね、今日実習で鬼のT大愛の農場に行っているよ。
「月曜に行っています。遠いですよね」
「家から遠いの? こっちに知り合いいないの?」
後ろにいた絹矢先輩が、私の顔を覗き込んだ。
「いないですね。お友だちは埼玉ですし」
「そうか……。大変だなあ」
えええ、心配してくれるんだ。
優しい方で良かった。
「アニ研にさ、友達だったら女子いるよ。殆ど来ないけど」
イエロー先輩だ。
どちらかと言うと、もう渾名で呼びやすそうである。
「そうだったね……」
ブルー先輩が寡黙ながら口を開いた。
「短大からの上がりで、
イエロー先輩はレッド先輩に振った。
「四年の
「そうなんですか」
「角男君、ラブホ男だから」
イエロー先輩は警告する様に口にしーっとやった。
「……」
ラブホって。
ラブホテル?
管弦楽でも、ラブホラーだと息巻いていた先輩がいたけど、何なの?
「あいつ、ラブホで働いて、寝泊まりしているって噂は嘘でもないらしいからな」
言いたい放題だな、ラブホって連発して。
あ、私も心の中で連発して。
ああ、ラブホ禁止、禁止だよ!
「そう言う話は止め止めな」
絹矢先輩が手で小さいバツを作ってくれた。
ウルトラ光線が出そうだよ。
やっつけちゃえラブホ。
私には関係ないもの。
行った事ないし。
『さあさあ俺もラブホラーだよ』
絹矢先輩は、そう言わない様で、安心しました。
「そだ、二年生諸君、渾名がないな」
イエロー先輩が仕切った。
「さーちゃんは、決まりね。そうだね、今迄、何だった?」
絹矢先輩は、ノリも良かった。
「俺? 南城だから、みなみくん」
丸っこい方で眼鏡をしている。
「何かかわいくない? せめて、ミナミな」
付け足すレッド先輩。
「はは、良いじゃん。それ採用」
へーい。
ハイタッチ。
「唯川は?」
「根拠不明のジャガーっす。駄目だよね?」
ジーパンじゃなくてパンツスタイルだな。
絹矢先輩と同じ銀縁眼鏡だ。
「ケチつけるつもりはないよ。何かな」
絹矢先輩が悩む。
可愛い。
「まんまでいいじゃん」
「そうだね……。いや、じゃがりんがいいな」
かっ可愛い!
小動物系……。
「あ、あざっす」
「望月は、ケッターでいいか?」
「良いっすよ」
「はは、渾名って、明るくなって良いよな」
絹矢先輩が大きな笑顔できらきらしていた。
「寄ってく?」
イエロー先輩が曲がり角で、切り返した。
ん?
どこに寄って行くの?
ごはんの話はどこに行った?
お腹が空いて鳴らないかなあ……。
あー、恥ずかしいや。
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