17 沢山います

「今日の講義は七時半に終わりっ。データベースの授業は楽しいなっと。ルンルン」

 せっせとリュックにルーズリーフを入れた。


 育種の小貝川こかいがわ君が近くの席にいた。

「先生に、『hepatitisヘパタイティス』が分かる人と言われて、『肝炎』と大勢の中から夢咲さんが答えるもんだから、何を勉強しているのかとびっくりしたよ」

「あは。バイテク研究所で、ゼミをやらないから、英語の自習してと言われているの」

「ゼミがないんだ……!」

「うん。仕方ないよ。じゃ、又ね」

 一度振り向いて、いーって顔で、にこりとした。

「褒められ慣れないので、嬉しい。ありがとう……」


 離れた所にある新築の講堂を去った。

「まあ、大抵の授業は好きだけど、絹矢先輩もこの講義を受けて欲しかったなあ。多分好きそうだと思う。アニ研では一緒だし、十分満足だけど。ありがたいですけどね。一緒に講義って、良いよねえ……」


 そんな恥ずかしいのは、勿論、独り言ですよ。

 アニ研のある、研究会連合棟へ向かって、さっさか歩きましたよ。

 その途中、二階へ上がる階段の所で、再び、絹矢先輩の後ろ姿を見掛けて、どんっきーん。


「遅いんだねえ」

「そうですね。今日は講義が遅いので」

 二人で並んで歩いて、アニ研の戸を叩いた。

「こんに……。こんばんは。遅く来ちゃった」

「こんばんは。いらっしゃい」

 ひょろりとした中村大翔なかむら ひろと先輩ことイエロー先輩。

「いらっしゃい」

 太めの青山健吾あおやま けんご先輩ことブルー先輩。

「こんばんは。大体いつ来ているの?」

 イエロー先輩が椅子を設けてくれた。

「週に六日は普通に。日曜日にも時々なら大学に来ていますよ」


 高校の同級生は進路が違っている。

 もう四大を出た友人達は、大学は遊べて良いとしか言わなくて、違うけどと言いたかった。


 一部、親友だと私が思っている、朱鷺谷咲ときたに さきさんは、分かってくれている。

 彼女とは、中学と高校が一緒で、それ以来、ぽつりぽつりと縁を紡いで来た。

 動物が好きで、ぬいぐるみも好きな共通点がある。

 でも、どちらからともなく、そんなに近い距離になれない。


 私は、べったりが好きなので、せめて彼氏にするのなら、甘えさせてくれるアツアツの方が良い。

 絹矢先輩はどうなのであろうか。

 ちょっと、私ったら……!

 告白前から、妄想が激しいよ……!


「来たばかりで悪いんだけど、これから、ごはんを食べに行くんだ。さーちゃんも来る?」

「はい! そうですね」

「じゃあ、皆でけえるべー」

「帰るべし」

 ギャグの好きな秋元凌一あきもと りょういち先輩ことレッド先輩。

「帰ろ、帰ろ」

 内緒の二年生だったりする同級生が三人。

 南城空なんじょう そら君、望月龍太朗もちづき りゅうたろう君、唯川陽日ゆいかわ はるひ君。

「腹減ったー」


 何か、楽しいムードでいいですな。

 どこに食べに行くのかな?


 ――のお隣に座りたいな。

 だって……。

 そりゃ、だってでしょう……!

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