4 大学生 (二)

15 お友だちができた

 ――一九九九三年、四月。


 櫻は、日の出前に、自転車でガシガシと自宅から遠い最寄り駅へ向かった。

 そこから、路線を三つ乗り換える。

 早いに越したことがないので、大抵T大に三十分前に着く。


 櫻は、T大農学部育種研で一緒の風間栞さんと、二年生になってから、よく一緒に講堂の前列に座った。


「おはよう。風間ちゃん」

 私はこのおっとりとした風間ちゃんに好感を抱いていた。

「うん、おはよう。何か今日も眠いや。ふわあ……。夢咲さんも二時間半掛けての通学でしょう? 混んでた?」

「いつも通り、半分過ぎたら座れたよ。風間ちゃん、埼玉からだものね、大変だよね」


 風間ちゃんと私は呼んでいたが、風間ちゃんは私を夢咲さんと呼んでいる。

 彼女は一浪して入って来て、私はN短大を出て浪人しているので、二歳異なる。

 それで遠慮しているのかな?

 私としては、夢咲ちゃんか、下の名で呼んで欲しかったが致し方ない。


 風間ちゃんのお誕生日は蠍座なので、魚座の私と相性がいい。

 何故星占いの話をするかって?

 それは、私が、絹矢先輩にフォ~リンラ~ブしてしまったから……。

 占いや心理テストの載っている雑誌も買うようになったからである。

 私は、これを『惚れたら買う錯乱の法則』と呼んでいる。

 アニメにしても同じでしょう。

 絹矢先輩の生年月日は、アニ研の名簿でちゃっかり知りました。


「夢咲さん。一時限目いちげん、何だっけ? 法学?」

 既に法学の支度をしている。

一般教養ぱんきょうじゃなくて、専門科目せんもん、病理だよ」

「そか」

 風間ちゃんは何事もなかったかの様に、病理のルーズリーフのページを開く。

「後で、生協でルーズリーフ新しいの買わないと」

 私は残り三枚なのに焦った。

「あ、あたしも用事があるんだった。コピーしないと」


 講義が始まった。

 この教授は版書が皆無でスライドで済ますので、ノートが大変だ。

 でも、全教科を「優」にしないと「特待生」で学費免除にならない。

 どんな授業にも食らいつかないと。


「眠い……」

「風間ちゃん、眠ったら起こす?」

「いや、いい……」


 かく……。


 あらら、落ちちゃった。

 通学も遠いし、薄暗い中で教授のぼそぼそ声だもの、眠いよね。


 ♪ キーンコーンカーンコーン……。


「じゃ、生協行こうか」

「無駄に広いからヤになるよね~」

 てくてくと歩いていた。

 二時限目の法学が休講だと掲示板に張られたのを見て、ゆっくりと行った。


 ぐう……。


 朝は、リッチな一人分の納豆掛けごはんだったけれども、もうお腹が空いて来た。


「聞こえた?」

「あ……。ちょっとね」

「きゃあ、恥ずかしい!」

「済んだ事だよ。大丈夫」

「ありがるん、風間ちゃん。コピー先に行こうか」

「ありがとう」


 生協の入り口で、ふと、後ろから知った声がした。

「こんにちは、さーちゃん」


 え?

 このタイミングで?

 風間ちゃんも一緒じゃん。


 ど、どうしよう……!

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