14 いつかの願い事

 カチカチ……。


 安い鍵で戸締まりをした。

 大切な物は、善生にはラジオ、染谷そめやには、ちっちゃんである。


 善生が先に歩み始めた。


 葵が来た時よりも冬の出で立ちで、ふっくらとした白いマフラーが暖かそうである。


「マフラー、お似合いですよ」

「ありがとうございます。自分にしか編まない手編みなのですよ」

 マフラーを巻き直した。

「はは……。今度お願いしますよ、みっちゃん」

「編むって事ですか?」

「お金がなくて、情けないですね」


 ちっちゃんの飼い主が上着を貸してくれる事はあった。

 今はいないので仕方がない。

 黙って借りれば泥棒で、借りなければ寒い。

 そろそろ、作業服以外にも一つ欲しい。

 春迄待てば暖かくなるからと繰り返して来たので、いざと言う時に困るものだ。


「どうぞ。……白ですから、気にならないと思いますが」

 今巻いていたマフラーをほどいて善生に渡した。

「……!」

「みっちゃんが、寒くなるのでは……? いけませんよ。ワタシは体が丈夫ですから」


 葵はマフラーの件は遮った。

「どこの神社に行かれるのですか?」

「間もなく着きますよ」

 善生は考え込んでいた。

「本当はですね、去年の映画、寅さんですよ、寅さん。一緒に観に行けませんでしたがね」

「ええ……」

「柴又帝釈天ですよ! ここからはそんなに遠くないし、いつか、一緒に行きたいと思っています」

 嬉々としていた。

「いつかって……。いつかって、ずっと先ですか?」

「それは、もう自分達で決めたいのですが?」

「そ……。そうですね。子供じゃないですしね」

「今年、初めての葵さんと行く神社はここですよ」


 町中に鳥居を見つけた。

 鳥居をくぐる際、善生に続き葵も会釈をして参道を行った。

 賑わいは、初詣だからか。

 特別な日の特別な神社になっていた。


 手水で手と口を清めた。

 小さく礼をし、お賽銭を放った。


 カッコッ……。


「一生縁があります様にとの一円です。みっちゃんは? 一円なら持って来ましたよ」


「折角貯金なさっているのだから、ご自身で使われた方が良いと思いますよ」

 葵は、カシャカシャとしか鳴らなかった乏しい貯金を思い出した。

 一円も借りる訳にはいかない。

「夢咲さんが見ていない時に入れちゃった。あは」

「え? どんな縁起を担ぎましたか?」

「これから、お願いします。二礼二拍手一礼、致しましょう」

「そうしますか」


『どうか、最初は男の子を授かります様に……』

 善生は、冗句ばかり言う自称ひょうきん者であったが、ここは、しっかりとお願いしていた。


『良縁に恵まれます様に……』

 葵はまだ決めかねていた。

 善生は変わり者であった為、引いてしまったのであろうか……。


 二人の深い関係は、まだ、先となる……。

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