5 ギャルですか
――翌日、夕方。
「こんにちは。再びお邪魔いたします。夢咲櫻です」
カラカラカラ……。
建物が古い割りには、部室のアルミフレームが滑るように開くものだ。
「おー。女子だよ、女子」
初めての方ばかり。
そうだよね。
だって昨日入部したばかり。
「これが噂に聞く女子か」
女子、女子、言うなよー。
「いや、ギャルだね」
絹矢せ、先輩……。
ちょっと死語かと。
少し私は赤らんでいないかと心配した。
初戀……。
きっとこんな甘酸っぱい感じが「戀」なのかしら。
絹矢先輩……。
「あはは。メカぶち壊しじゃん」
痩せた感じの絹矢先輩位の背のある方が指差して笑っている。
「設定だけはいいんだけどな」
ちょっとだけ太めの方も頬杖をしている。
「そうだよ、そうそう。分かってないんだよね」
絹矢先輩、お友達と談笑している。
部室のテレビで皆でアニメを観ている。
どうやら、勇気シリーズらしい。
楽しそうで、いいなあ。
何かを楽しめる人って、打ち込める人って素晴らしい。
うんうん。
今年四年生みたいね。
多分現役生。
このT大学は、半分が現役のまま、半分が浪人してやっと入学しているのよね。
絹矢先輩は、じゃあ、二十一歳か。
と、年下。
理想の五歳年上論はどこ吹く風だよー。
「おーし。じゃあ、帰ろうか」
アニメが終わって、入部したばかりの私も一緒に帰った。
薄暗くなり、部室のある会館を出て最寄り駅のT大前迄歩き出した。
「皆さん、男性の方ばかりなんですね」
「おお、人数的に廃部寸前なんだ。やめないでくれよー」
私はくすくすと笑って返した。
「大丈夫ですよ」
だって、貴方がどこにいても気になって仕方がないのです。
今、離れられると思いますか?
絹矢先輩……。
一人の先輩に肩の向こうから声を掛けられた。
「俺は中村ね。夢咲さん、渾名とかあったりする?」
「え? 私ですか?」
振り仰いだ。
「うん、俺はイエロー。カレーライスが好きだから」
「あは。イエローっていいですね。……私はですね。櫻だから、祖母はさっちゃんって呼んでくれていたわ」
一緒に暮らしていた頃の夢咲ハナおばあちゃんを思い出した。
どうしているのかな……?
「うん、成る程ね。……じゃあ、さーちゃんは?」
絹矢先輩が提案して来た。
「あ、はい。それでお願いします! 何か恥ずかしいですが」
「さーちゃん、前々。前見て。ぶつかるよ」
「はっはい」
初めての名前、さーちゃん。
素敵な渾名をありがとう。
今迄の渾名は、チビ、ハナクソ、ホクロ、ベロンチョ。
何も嬉しくないよ。
でも、絹矢先輩は違うんだね。
出逢って間もないのに……。
こんなに、こんなに、胸が苦しいなんて。
これって、一目惚れ……?
一目惚れの初戀は、二十二歳の葉桜の頃。
今でも綺麗な想い出となっています。
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