6 無駄無駄過干渉

 ――二時間半後、十一時半に帰宅。


 ギキイー。

 ガラガラ……。


 門扉をくぐり、庭のうさぎ小屋にいる可愛いうさぎさんとご挨拶し、施錠していない玄関から部屋中灯りだらけの自宅に入った。

 灯りだらけなのには、両親の呆れた理由があった。

 こう言うのは、景気良く使うんだとか、ものぐさの賜物で、ぴかぴかと恥ずかしい位の不夜城であった。

 私が、何を言っても駄目なので、深追いはしない事にした。


「何か食べたんでしょう?」

 母の夢咲葵ゆめさき あおい、いつも余計な事を話すんだよな。

「誰かと食べて来た?」

 含みのある言葉が胸に刺さった。

「食べて来ていたらお腹が空いていないよ」

 毎日とても散らかっているテーブルに、疲れてやっとついた。


 母は、よく、父の夢咲善生ゆめさき よしなりにどやされていた。

「こん、ぶっ散らかしやがって!」

 そう言われても省みもせずに、散らかし続けた。

 実際の所、片付ければ良かったんじゃないか?

「お父さんは、会社のお兄さんと上手く行かないから、当たり散らしているだけ。本当にいい迷惑だから」

 そう、愚痴愚痴と私にだけは、溢して来た。


「男でもできた?」

 無粋な所は相変わらずである。

「もう、接吻したの? いや、手ぐらい繋いだか」

 母は、自分にお茶を入れ、汚いテーブルで、父のつまみ等、食べ残しを食べている。

 母は、料理に火を使わない。

 トマトときゅうりを切って出す。

 塩と味の素信者で万歳。

 蒲鉾を切って出す。

 白菜の漬け物を切って出す。

 もう、自由です。


「そう言う話は止めようよ。男なんて言い方も良くないし、特にそんな浮わついた話はないよ」

 辟易していた。

 進学塾に、男は何人位いたかとか、変な質問して来るような母だ。

「じゃあ、何ならあるの?」


 そうですか?

 じゃあ、まともな話をしますよ。

「……大学を中退するのは暫く考えて置く事にした。一年の前期迄入っていた、管弦楽部じゃないのに入ったから」

 リュックを下ろして、独語と仏語の予習をするべく、テーブルを綺麗にした。

 私には学習机がない。

 大抵は炬燵で勉強だ。

 勉強、勉強、又、勉強。

 うちに春炬燵は珍しくない。

 ものぐさも極めている家庭には困ったものだ。


 子供であるが故に、自分の意見は言えないし、常識が親によって変わってしまう。


「それから、農業実習で知り合った、風間栞かざま しおりちゃんって、管弦楽部で偶然一緒だったみたい。風間ちゃんと仲良くお昼を食べたりしているから」

 せっせとノートにスキットを写し、単語帳を作りながら、反対のページに訳を書いた。

 独語も仏語も好きだった。


「あのね、お母さん。私は、勉強する為に大学に入ったの」

 最初の美大だけではなく、理系の勉強もしたくて、高校生の時に、二つ大学に行こうと決めていたの。

 それから、大学院には必ず行きたいとも思って、併設されているT大を選んだのだ。


「お付き合いした方ができたら、きちんと紹介するから」


 生まれ来る子の事を考えて、浅はかな行動は取りたくなかった。

 高校の時に、もうデビューしていたクラスメイトがいたけれど、結局別れて、又、別れてだった。


 私は、一人の方と寄り添って行きたい。

 間違って、身籠ってしまったら、自分への悲運と同じである。


 それは、大切な命を守る為……。

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