第56話 廊下でからまれる

「ちょっと、分かったから、手を話しなさいよ」

 僕の隣の席の女の子、GOレンジャーピンクは言いました。

 僕達は教室のドアを出た所で立ち止まりました。

「分かったって何だよ?僕にちゃんと説明してもらわないと。僕が居ない間に、いったい僕の分身は何をしてたんだ?」

「知らないわよ」

「知らない理由があるかい。君は僕の席の隣に居たんだろ?」

「まあ、そうなんだけど。気がついたら、こういう事になっていたのよ」

「はあ?」

「そんな、ずっと見張っていたわけじゃないのよ。本当に、気がついたらこうなっていたの」

「何だそれ?」

 ドタドタドタドタ!

 数人の男達がこちらに走ってくるのが見えました。

「この悪魔め!死ねえええ!」

 ドシーン。

「ぐわ!」

 僕に殴りかかって来た男をGOレンジャーピンクが投げ飛ばしました。

「あらら!やっちゃった!」

 口に手を当てて驚いた様子のGOレンジャーピンク。

「おい、なんだ、どうなっているんだ?」

「こらあああ!お前もこいつの仲間かああああ!」

「違います違います!私は全然関係ありませんので、でわ、じゃ、あの失礼しまーす」

 GOレンジャーピンクは教室に入ってドアを閉めました。

「まあ、良い、こいつが先だ!」

 男達は一斉に僕を襲って来ました。

「ちょ、ちょっと待って、うわああああ」

 僕が後ろに下がると、とんっ!とそこに立って居た二人の白い女学生にぶつかりました。

 二人の女学生は僕の隣をすーっと通り抜ける様に僕の前に移動しました。

「おやめなさい」

 白い女学生が言いました。

 男達の動きがピタリと止まりました。

 そして男達はガタガタとふるえだしました。

「あなた達、暴力はいけないんじゃなくて?」

 さーっと男達の顔が青ざめて行きました。

 白い女学生は少し前に歩を進め、先ほど可愛い女の子が落としていった大きな弁当包みを拾い上げました。

「さあ、金さん、お弁当を食べに行きましょ」

「あ、ああ」

 二人の女学生は僕の腕を取りました。

 僕は二人の女学生に挟まれて歩き出しました。

 目の前に居た男達はザザザと僕達に道を開けました。

 何事かと見ていた生徒達も僕達の前からサササと移動しました。

「ちくしょー!もう勝てねええええ」

 僕達の後ろで男の声がしました。


 僕と二人の白い女学生は中庭のベンチに座りました。

 白い女学生は何時もの弁当箱を開けました。

 一人はいなり寿司、一人はおはぎの弁当でした。

 そして、可愛い女の子が落としていった弁当箱も開けました。

 そこにはLOVEとご飯の上に書かれていました。

 ジロリと僕を見る二人の白い女学生。

「いや、ちょっと、僕も事情が分からない、ってか、昨日まで僕と君達はここには居なかっただろ?」

 白い女学生は二人で顔を見合わせました。

「ええ、確かにそうですね。でも、これはどういう事なのでしょう?」

「いや、僕もさっぱり分からない。たぶん、僕の分身が何かしたんだろうけど」

「あなたの分身が?」

「そう、あ、そうだ、さっきの女の子、ほら、男を投げ飛ばした、あれって実はGOレンジャーピンクなんだけどさ、今回の分身の事で君達に話があるって言うんだけど」

「GOレンジャーピンク?」

「そう、この前のバイトを紹介してくれた子なんだけど。あのマリヤさんの分身を保護したいらしいんだけどさ」

「保護ですか?」

 白い女学生は白い女学生の分身を見ました。

「いいえ、私はこのままでいいですから」

 白い女学生は言いました。

「ええっと、二人共学校に居るって事は、授業とかも二人で出てたりとか」

「ええ、私と私は私なのですから、一緒に授業も出ていますよ」

「ええ!けど、それだと、先生とかから何か言われたりは」

「特に言われませんでした」

「ああ、そうなんだ」

「GOレンジャーピンクさんに言っておいてください。保護なんてしなくても大丈夫ですから、心配しなくていいですからって」

「あ、ああ、そう?でもさ!まあ、ねえ、そうか、うーん」


 僕はいなり寿司とおはぎを食べました。

 LOVEとかかれた弁当には手をつける事は出来ませんでした。

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