第53話 家で夕食を食べる

「ただいま」

 僕が家の玄関を開けたのは夕飯時でした。

 僕は1週間ほど時空を超え何処か知らない世界を旅して家に戻ってきたのでした。

「あれ?誰か来た?」

 台所の方から母の声が聞こえました。

「ええ?誰?」

 妹の声が聞こえました。

 僕はお腹が減っていました。

 僕は何の迷いもなく台所の戸を開けました。

「ただいまー」

 久しぶりに会う家族に僕はうれしくなりました。

 しかし、父と母と妹ともう一人の僕は僕の方を見て動きを止めました。

「あれ?何?誰?なんで?」

 母が言いました。

「ああ!しまった、そうだったか、ごめんごめん。ちょっと間違えた。ごめんごめん」

 僕は引き下がりました。

「待って!お兄ちゃん」

 妹が言いました。

「ごめん、いやー、参ったなー」

 僕は台所の戸を閉めました。

 僕の目からは涙が溢れてきました。

 なぜか、僕はとても悲しくなりました。

 立ち去る僕の後ろで、台所の戸が開きました。

「ちょっと待ちなさい」

 父の声でした。

「お腹減ってるんじゃないか?まあ、食べてから行ったらどうだ」

 僕はその暖かい声に逆らえずに「ありがとう、お父さん」と言いました。

 母は目の前に居る二人の息子に目を白黒とさせていました。

 妹は食べるのを止めて僕達をジッと見ていました。

 父は普段と何も変わらないとでもいう風にビールを飲んでおかずを食べていました。

 もう一人の僕も食べるのを止めてじっと座って居ました。

 僕は涙が止まらずにご飯を食べつづけました。

 あまりにも気まずいので、僕はさっさとご飯を食べてしまいました。

「じゃ、ちょっと、行こうか」

「そうだね」

 僕ともう一人の僕は席を立ちました。

「おい、大丈夫なのか?」

 父が言いました。

「たぶん」

「ううう」

 母が突然泣き出しました。

「いやいや、大丈夫だから」

 僕は母をなだめました。

「おい」

 僕は妹に声をかけました。

「何か誰かに聞いてないか?」

 妹はブンブンと首を振りました。

「そうか。じゃ、ちょっと行ってくる」

 僕ともう一人の僕は家を出て駅前に向かいました。


 僕は歩きながら電話をかけました。

 プルルルル。

「あ、もしもし~、帰ってきた~?」

 GOレンジャーピンクの声がしました。

「帰って来た~?じゃねえよ!状況はどうなっているんだ!」

 僕は電話に向かって叫びました。

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