第49話 過去に来た

「あの世?」

 僕は白い女学生に言いました。

「そうです。ここはあの世です」

 僕の手を両手で握った白い女学生が言いました。

「って事は、僕は死んでしまったということかな?」

「いいえ、死んではいません。ちょっと現世から外れてしまっただけです」

「どういうことなの?」

「先ほどあなたに声をかけた男が私たちを引き込んだのでしょう。まあ、ちょうど良かったです。ここからなら家に帰れますよ」

「はあ」

「ここからなら裏道に行けますから。さあ、行きましょう。もう一人の私とも手を繋いでください」

 僕は両手で二人の白い女学生と手を繋ぎました。

 白い女学生は僕の手を引いて歩き出しました。


 真っ暗闇の中を僕達はウネウネと歩き続けました。

 僕に見えるのは白くボーッと光っている二人の白い女学生だけでした。


 遠くに光が見えました。

 その光を見るに、僕達は暗い細長い路地を歩いている様でした。

 暗い路地の向こうから街のざわめきが聞こえてきました。

 ピッピー。

 路地を出た通りを三輪トラックが通りすぎて行きました。

 僕達は何時の間にか暗い路地の入り口に立って街の通りを眺めていました。

「えーっと、ここは?」

 僕は通りを歩く人々を見ました。

 全ての女の人は着物姿でした。

 子供達も着物姿でした。

 男の人は着物姿の人もいれば洋服を着ている人もいました。

「ここは少し昔の時代です」

 白い女学生が言いました。

「えーっと過去に来たって事?」

「はい」

「えーっと、元の時代には帰れるのかな?」

「はい、ここはただの通過点ですから」

「ふーん」

「金さん、ちょっと」

 白い女学生はハンカチを取り出すと、僕の顔をふき始めました。

「な、なに?」

「金さん顔がドロドロですよ。そんなドロドロでは人前に出たら注意されます」

「はあ」

 僕の学校の制服もドロドロでボロボロでした。

 僕は二人の白い女学生を見ましたが、二人共まったく汚れていませんでした。

「さあ、その上着を脱いでください」

 僕は上着を脱ぎました。

「ズボンもドロドロですが、まあ、仕方ありません。ここでは私が金さんの手を引いて歩く事は出来ません。なので私を見失わない様にちゃんとついて来てください」

「ああ、わかった」

 白い女学生は街の通りの方を見ると髪を束ねて後ろに留めました。

 そして僕をチラリと見ました。

「ええええ?」

 僕は心の中でそう叫んでいました。

 何時も長い髪で覆われていた白い女学生の顔を僕は初めてちゃんと見ました。

 白い女学生の顔はとても美しくてキリリとしていて健康的でした。

「ふふふ」

 白い女学生は僕に笑いかけました。

 僕はその笑みを見てぼーっとしてしまいました。

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