第31話 悪魔討伐

「しくしくしく」

 突然、白い女学生は顔に手を当てて泣き出しました。

「ど、どうしたの?」

 僕は白い女学生に声をかけました。

「いえ、なんでもないんです」

 聞こえないような声で白い女学生は言いました。

「いや、まあ、君が泣くって事は間違いなく、僕のせいだろうから、あの、ごめん」

「いえ、本当に」

「悪魔を呼び出したのは、僕にも半分は責任があるんだ」

「また、そんなことを私に言うのですね」

「え?」

「金さん、私を頼らずに生徒会長さんを頼って、そう、巾着袋のお金を取り出そうとしたんじゃないんですか?」

「いや、まあ、そうなんだけど」

「金さん、私の事があまり好きじゃないみたい」

「いや、そんな事は無いんだけど」

 僕は少し言いよどみました。


 廊下の端の方から大勢の体操服を着た学生が走って来ました。

「生徒会長!陸上部です」

 体操服を着た学生たちは生徒会長の前に止まるとそう名乗りました。

「はい、それでは早速連絡係をお願いします」

「はい」

 僕は何が始まったのかと、生徒会長を見ました。

「全運動部に校庭に集合と伝令、防衛の陣をとらせろ」

「はい」

 複数の陸上部員がサササと去っていきました。

「書道部に悪霊の侵入を防ぐ呪いのお札を書くよう伝令」

「はい」

 また複数の陸上部員がサササと去っていきました。

「家庭科部は炊き出しをお願いしますと伝令」

「はい」

「茶道部にお茶を持って来いと伝令」

「はい」

 なんだなんだと僕は生徒会長と陸上部員を眺めていました。

「伝令!伝令!剣道部は真剣の仕様の許可を求めています」

「許可する」

 サササとやってきた陸上部員はサササとまた去っていきました。

「図書委員に悪魔についての情報を調べさせろ」

「はい」

 生徒会長の前に居た陸上部員は去ったりやって来たり忙しそうに走り回っていました。


「あの、会長」

 僕は会長に声をかけました。

「なんです?」

「何が始まったのですか?」

「何がって?学校を守る布陣を引かなければいけないでしょう」

「はあ」

「今日は、悪かったわね、君の彼女も泣かせてしまったし、まあ、後は私たちに任せなさい」

「はあ」

 また陸用部員が走って来ました。

「伝令!悪魔がすでに校舎に入っているもよう」

「えええい、まだ校舎に残っている生徒を最上階に避難させろ」

「はい」

「さあ、君たちも早く行きなさい」

「はあ、どこに?」

「校舎の最上階に行きなさい」

 会長に言われて僕は白い女学生の肩を抱きながらその場を去りました。

 廊下にピンクレンジャーが倒れていたので、ピンクレンジャーを抱っこして持っていく事にしました。


 校舎の最上階の窓から観た校舎周辺は地獄絵図の様になっていました。

「駄目だ、人間が勝てるわけない」

 僕は外の様子を見て言いました。

「金さん、あの刀を出してください」

 いつの間にか泣き止んだ白い女学生が言いました。

「刀?」

「巾着袋から刀を出して下さい」

「いや、そんなこと言っても、出ないからなあ」

 そんなことを言いながら僕は巾着袋に手を入れました。

「あれ?」

 僕は巾着袋の中で手に触れた刀を取り出しました。

「あれ?取り出せた」

 それは赤くヌラヌラとした気を放つ、あの賭場で買った刀でした。

「金さん、それさえあれば、この場は直ぐに収まります」

「え?そうなの?」

「さあ、刀を抜いて天にかざしてください」

「えーと、こう?」

「もう良いです。刀を鞘に戻して下さい」

「え?もう良いの?」

 僕は刀を鞘に収めました。

「あれ?」

 僕は窓から再び外を見ました。

 そこには先ほどまで生徒達が戦っていた禍々しくうごめく悪魔が消えていました。

「勝ったぞおおおお!」

「うおおおおお!」

 と言う声が聞こえてきました。

「なんだこれ?」

 僕は唖然としました。

「金さん、もう二度と、私抜きで悪魔なんて呼び出したりしないで下さい。約束ですよ」

 と白い女学生は言いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る