第29話 生徒会長の誘惑

「悪魔を呼ぶのよ」

 生徒会室で生徒会長は僕にそう言いました。

「悪魔ですか?」

「そう、悪魔を私の手下にするのよ」

「はあ」

「学園陰謀を企てるには、まず、それなりの準備をしなければいけないでしょう」

「はあ、そうなんですか」

「そうよ」

「で?僕から5000万円を貰ったとして、その金はどうするんですか?」

「それは悪魔に払う給料として悪魔に支払われます」

「給料?」

「ええ、悪魔も働くからには給料が必要らしいのよ」

「はあ。えーっと、その情報は何処で手に入れたんですか?」

「漫画よ」

「漫画ですか?」

「ええ、かなり妖怪とか悪魔に詳しい漫画よ」

「いやー、たぶん、その漫画は僕も読んだことがありますよ」

「あら?そうなの」

「ええ、けど、アレは、まあ、漫画ですからねえ」


「君、ちょっとこっちに来なさい」

 生徒会長は生徒会室からその隣の部屋に通じるドアに手をかけました。

 僕は前に生徒会長の手伝いをしてその部屋が物置になっている事は知っていました。

 僕は生徒会長に続いてその物置部屋に入りました。

「会長、これは?」

 その部屋のダンボールに入った荷物は壁際に高く積み上げられ、床には魔方陣らしき物が描かれていました。

「どう?もう悪魔を呼ぶ準備は整っているのよ」

 ニヤリと笑う生徒会長。

「会長」

「何?」

「よくここまで準備しましたねえ」

「ふふふ。まあね。インターネットで色々と調べて何とか準備したわ」

「はあ、そうなんですか。へー。で、悪魔ってのは会長一人で呼べるものなんですか」

「ええ、大丈夫よ。後はお祈りをするだけって感じですから」

「ええっと、それを今するんですか」

「ええ、今から行いましょう」


「ちょ、ちょっと待ってください。今、悪魔を呼ばれても困りますよ」

「どうして?」

「だって、僕は5000万円なんて大金持ってませんよ。そんなの高校生が持っている金額じゃ無いですよ」

 会長はニヤリと笑いました。

「君が一億円持っているのは知っているわ。一般人じゃない人間にはもう知られた事実なのよ」

「一般人じゃない人間?」

「高校生でも生徒会長くらいになると、一気に情報源は増えるわ。そう、2日前に君が13億円ほど博打で勝ったとかは、一面に載っていたわよ」

「ちょ、っちょっと、待ってください。何の一面にそんな事が出てたんですか?」

「スポーツ新聞にドーンと出ていたわよ。私のお父さんの」

「スポーツ新聞に?」

「ええ。お父さんには読めないけど、私には読めるのよ。私が生徒会長になってから読める様になったの」

「そ、そんな馬鹿な」

「だから、私にはもうバレているのよ」


「そうですか。分かりました。信じられませんが、バレているのなら仕方ありません。しかし、一億円が今僕の手元に無いのもまた事実なのです」

「家にあるの?」

「いえ、実は、この巾着袋に一億円を入れたのですが、出てこなくなりました」

 僕は巾着袋を取り出して会長に見せました。

「この巾着袋は底無しの巾着袋なんです。何でも、入り口のサイズが合えば、どんな量でも入ります。で、僕は博打で勝って余った金の一億円を入れたのです。けど、金は出てこなくなりました」

「ふーん?これ?ちょっと見せてくれない」

 僕は会長に巾着袋を渡しました。

「わあ、本当だ!腕が消えちゃった!うわー、不思議不思議!」

 会長は腕の根元まで巾着袋に入れていました。

 会長はしばらく巾着袋を覗いたり、逆さにしたりしていました。

 会長はしばらくして僕に巾着袋を返しました。

「あ、そうだ!」

「はい?」

「悪魔を召喚してこの巾着袋から一億円取り出してもらおうよ」

「そ、それわ」

「そうすれば君も大金が取り戻せるじゃない?」

「はあ、まあ」

 僕の迷った心に会長は揺さぶりをかけてきました。

「ねえ、そうしましょうよ」

 会長は僕の直ぐ隣に来て僕の腕に腕をからませてきました。

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