第16話 金角銀角対坊主

 ズルズルズルと僕は国道沿いのラーメン屋でラーメンをすすっていました。

 もちろん僕はキンキラキンの金角の特攻服を着ていました。

 僕の隣には白い女学生が座っていて、やはりラーメンをすすっていました。

 そして、やはり、白い女学生はギンギラギンの銀角の特攻服を着ていました。

 その向こうの席で僕のクラスメイトがラーメンをすすっていました。

「へい、らっしゃーい」

 ラーメン屋は夜遅いにもかかわらず客が沢山いました。

「ご注文はお決まりですか?」

「肉なしラーメン」

「じゃ、こっちもそれで」

「あ、俺もそれで」

「僕も」

「同じで」

 僕は何だと思って今入ってきた客の方を見ました。

 そこには4人のお坊さんが座っていました。

「なあ」

 僕は小声で白い女学生に話しかけました。

「肉なしラーメンって言ってもスープは鶏がらで出しているから、坊さんはラーメン食べちゃだめなんじゃないかな?」

 白い女学生は僕を見ました。

「そんなことはないでしょう。現にお坊さんはラーメン屋に来てラーメンを注文しているじゃないですか」

「まあ、確かにそうだけど」

「いや、肉は食っちゃ駄目だけど、肉から出る成分は肉じゃ無いからいいんじゃない?」

 白い女学生の向こうに座るクラスメイトが言いました。

「まあ、そうかもな」

 僕はまたお坊さんの方を見ました。

 4人のお坊さんはこっちを見ていました。

 たぶん、クラスメイトの声が聞こえたのだと僕は思いました。

「へい、肉なしラーメンね」

 お坊さんの前にラーメンが出てきました。

 そしてお坊さんはそのラーメンを食べ始めました。

 僕たちはラーメンを食べ終えたので、店の外に出ました。

 店の広い駐車場には30台のバイク、50人の特攻服を着た人々、トラック、車がひしめき合っていました。

「さーて、これからちょっと走って街まで出て、一回りしに行くぜ」

 クラスメイトが言いました。

「おう、街までいくのか?」

「ああ、街に出ると、いろいろな奴等が集まってきているから面白いぜ」

「ふーん、そうなのか」

「おう、楽しみにしとけよ」

 僕は白い女学生をみました。

「えーと、けっこう遅くなるみたいだけど大丈夫なのかな?」

「大丈夫です」

「そう?じゃ、ちょっと僕は家に遅くなるって電話しようかな」

 僕が携帯電話で家に電話していると、僕達の後ろから声がしました。


「おい!金角、銀角」

 僕が振り返るとお坊さんが4人立っていました。

 すかさず、白い女学生が言い返しました。

「糞坊主ども」

「なんだと?」

 そう答えたお坊さんが何やら踊り始めました。

「うわあああああ」

 お坊さんは叫びながら踊っていました。

 何が起こったのかサッパリ分かりませんでした。

 僕は白い女学生を見ました。

 白い女学生は昼飯のときに使った魔法瓶を両手で振っていました。

「うわああああ、やめろおおおお」

 このときに僕は気がつきました。

 お坊さんは踊って居るのではなく、苦しんでのた打ち回っているのでした。

「やめてくれえええ、出せええ」

 白い女学生はしばらく魔法瓶を振っていました。


 お坊さんが地面にひっくり返ると、白い女学生は魔法瓶の蓋を取り、そして魔法瓶を逆さにしました。

「おい、糞坊主」

 白い女学生はもう一度そう言いました。

 残りの3人のお坊さんはそのときすでにお経を唱えていて、返事をしませんでした。


「えーっと、今のは?」

 僕は白い女学生にききました。

「これは金角銀角の話ですよ」

「ええと、ひょうたんに吸い込まれる、あれ?」

「そうです」

「ええと、けどなんで?」

「だって、あなたは金角、私は銀角ですから」

 白い女学生はキュッと赤い唇を吊り上げて笑いました。



「喧嘩?」

「喧嘩か?」

「おい、ヤバイだろ、もういこうぜ」

 そんな声が上がるなか、僕たちは再びバイクで走り始めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る