第13話 バイトの前に

 土曜日の学校の朝。

 僕は隣の席の女の子に話しかけました。

「なあ」

「なによ?」

「バイト代の2万円返ってきたよ」

「あらそう?よかったわね」

「でさ」

「なによ?」

「やっぱりあのグレイの人は宇宙人なんじゃないの?」

「ふーん?何でそう思ったの?」

「だってさ、昨夜、宇宙人がUFOに乗ってやって来て、僕に2万円返してくれたんだよ」

「それで?」

「いや、だからさ、君の働いている組織は宇宙人と何か繋がりがあるんだと思うんだよ。でなきゃ、僕の2万円を宇宙人が返しに来ないだろう?」

「ふーん、なるほね。それじゃあさ、私も宇宙人かも知れないわね」

 僕はそれまでそっぽを向いて話していたのですが、そう言われて僕は隣の席の女の子を見ました。

 隣の席の女の子はニッコリと微笑んでいました。

「そうなの?」

「さあね。どうでしょうか」

 キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴りました。


 休み時間。

「おう、今夜来れるんだろう?」

 バイク乗りのクラスメイトが僕にききました。

「ああ、バイトの後でな」

「じゃさ、バイトが終わる頃に迎えに行くよ。あそこのレストランだっけ?」

「ああ、そうだけど。迎えに来るのか?」

「おう、任せておけ。お前もバッチリ決めて来いよ」


 土曜日の学校は昼までの4時限で終わります。

 僕が教室を出ると、また白い女学生が立っていました。

「あの、バイトは夕方からですので、あの、またバイトで会いましょう」

 僕はそう言いました。

「お弁当を作ってきたので、一緒に食べましょう」

「え?弁当ですか?」

「何処で食べましょうか」

「いやー、弁当ですか。そうですねー」

「じゃ、中庭のベンチにいきましょう」

「はあ」


 中庭のベンチで僕と白い女学生は弁当を食べていました。

 今日の弁当はイナリ寿司でした。

「どうですか?美味しいですか?」

「はあ、美味しいです」

「そうですか。よかった」

 白い女学生は魔法瓶からお茶をコップに出してすすりました。

 昨日の夜の事を話し出してよいものだろうか、僕は考えました。

 というか、この白い女学生に僕は話しかけてよいものだろうか。

 未だに、誰とも何とも知れないこの人に。

「春の日差しが暖かいですね」

 女学生が言いました。

「はあ、そうですね」

「私、今、とても幸せです」

「はあ、そうなんですか?」

「はい」

 僕は何と言ったものかまったく分からなくなりました。


 弁当を食べ終わった後。

「あなたの家に連れて行ってください」

「ええ?僕の家にですか?」

「はい、バイトの時間まで少しおじゃまさせてください」

「ええ?それはちょっと」

「一緒に学校の宿題をやりましょう」

「えー、それはちょっと」

「お願いします」

「えー、っと、それは」

「駄目ですか?」

「いやー、駄目って事はないんだけど」

「お願いします。日の出ている間、私には帰れる場所が無いのです」

「はあ、そうなんですか?」

「お願いします。お願いします。お願いします」

「いやいやいや、まあまあまあ」

 僕は結局断りきれずに白い女学生を僕の家に連れていくことになりました。

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