第12話 グレイから2万円貰った後

 グレイが僕に2万円を渡し、UFOが去っていった後で、白い女学生は僕の手を取りました。

「帰りましょう」

「あ、ああ。えっと妹も連れてかないと」

「お兄ちゃん」

「あれ?」

 妹はすでに白い女学生に手を握られて横に立っていました。

「早く、こっちです」

 遠くからヘリコプターの音が近づいてきました。

 白い女学生は僕と妹の手を引いてグイグイと歩いて行きました。

 夜の暗闇の中でしたが、歩いていると更に真っ暗闇になりました。

 近づくヘリコプターの音も消えていました。

 白い女学生の白い影だけがうっすらと見えました。

 不思議な事に僕たちは学校の門にも塀にも行き当たりませんでした。

 もう何処を歩いているのか分かりませんでした。

「ねえ?ここは何処なのかな?」

 僕は白い女学生に言いましたが、答えは返ってきませんでした。

 しばらく僕たちは歩き続けました。


 暗闇の向こうに少し光が見えてきました。

 そして気がつくと僕たちは近所の神社の鳥居のある場所に出ました。

「ここからなら家も近いでしょう。さようなら」

 そう言ってから白い女学生は神社の方へ帰ってしまいました。

 僕と妹はそれをずっと見守っていました。

「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「あの人、お兄ちゃんの何なの?」

「何なんだろうな?僕も出会ったばかりでさ、良く知らないんだ」

「ふーん?彼女なの?」

「いや、それはないけど」

「それにしては、なんか慕われてるわね」

「うーん。やっぱそう見えるか?」

「うん」

「まあ、帰ろう」

 僕と妹は家に向かって歩き始めました。

「ねえ?」

「ん?」

「あの白い光の中で何があったの?」

「ああ、宇宙人がやってきて、僕に2万円くれたんだ」

「グレイが?」

「そう、グレイが来て、僕に2万円くれたんだ」

「じゃ、この前、私がやった催眠術の結果どおりだったのね?」

「たぶん、そうなんだろうな」

「けど、何でお兄ちゃんに2万円くれたのかな?」

「まあ、なんというか、バイト代の残りなんだよ、これ。受け取ってなかった分の」

「お兄ちゃん宇宙人と働いているの?」

「いや、このときは怪人に拉致られて、危ないところだったんだ」

 妹は黙って何か考え始めました。

 僕も考えました。

 たぶん、この2万円は、グレイが僕の給料から抜き取って盗んだのではないだろうか。それを僕がピンクレンジャーに問い合わせたので、組織の上からグレイに調査がいったのだ。そして、盗みがばれたと思ったグレイがUFOに乗って僕の所にお金を返しに来たのだ。そして、偶然僕は天文部の星の観測をしていた。

「おい、ちょっとまてよ?」

「どうしたの?」

「なあ、あの天文部って本当に天文部だったのか?」

「どうして?」

「だって、なんで儀式めいたことしてUFOをよんだんだよ?おかしいじゃないか?」

「えっと、それは・・・」

「それは?」

「実はアレは天文部の名を借りたオカルト研究部だからよ」

「何それ?」

「この前のお兄ちゃんの記憶喪失のときにやった私の催眠術の事を、私、友達に話したのね。そしたら、その子が、天文部の友達を紹介してくれたの」

「ふーん、で?」

「そしたらその天文部ってのが、オカルトマニアの集まりだったのよ。そして、お兄ちゃんの記憶を戻すにはもう一度宇宙人とコンタクトする必要があるって言うから」

「で、今夜の星の観測が催されたってわけか」

「そう。ごめんね、お兄ちゃん」

「まあ、いいさ。2万円戻ってきたしさ。気にするなよ」


 僕と妹は家につきました。

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