2-2
校庭に出ると、すぐしずめに見咎められた。
「松雨さん、遅かったな」
「ごめんなさい、わたしどんくさいから」
しずめの追及を素早くかわして、女子の輪の内へと紛れ込んでいく。この中に入ってしまえば、もう誰もわたしを見つけられない。表情も、感情も、無個性の群れに沈むのだ。
けれど、そうやって集団の一部となる直前、わたしは思いがけず校舎の方を見遣ってしまった。
――つづみが、こちらを見つめていた。
小さい頃に足を痛めて以来、つづみは激しい運動ができないようになってしまった。だから、体育の時はいつもああやって保健室で自習をしているのだ。
まさに、病弱な深窓の令嬢といった様子。つづみが普段纏っている英雄のような雰囲気も、今は感じられない。声も風も届かない校内からこちらを見つめる姿は、外の世界に憧れる病人のそれである。
わたしはしばらく、つづみから視線を外せなかったし、彼女もわたしから視線を外さなかった。純粋な瞳だ。その中にあるのは憧れだろうか、嫉妬だろうか、それとも無関心なのだろうか。
つづみからすれば何気なくこちらを見ているだけだろうが、わたしは気が気ではなかった。ぎりぎりと心臓が万力で締められるようだ。チョコレートを盗んだのが知られているのはありえないが、自分の顔に罪悪感が出てしまわないかが不安でたまらなかった。
つづみは口数が少なくて人に話しかけない代わりに、心理カウンセラーもかくやと言うほど他人の行動の機微を見ている。それに……つづみなら、わたしの気持ちなんて簡単に見透かしてしまう気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます