第4話覚悟 1

 博美の家の前に着いたとき、博美はまだ眠っていた。衛は一足先に降りて、名村家のインターフォンを押した。

「衛です。遅くなりました。」

「今、開けます」

博美の母親のその応対の声を確認して、衛は眠ったままの博美の方のドアを開け、彼女を抱き上げた。だがその振動で裕美が目覚めた。

「あ、えっ? やだ、衛下ろして」

「落とすから暴れんなよ。玄関で下ろしてやっから」

そう言って、衛は博美をもう一度がっちり抱え直した。博美も諦めたのか、衛の首に手を回す。

 やがて、名村家の玄関に博美の家族(両親と順子)が挙って出てきた。

「失礼します」

と前置きして、衛はすっと家の中に入り、玄関先の板の間に博美を下ろした。

「心配かけてすいません」

「君のせいじゃないから、気にしなくて良いよ寺内君」

神妙に頭を下げた衛に、博美の父がフォローする。

「そうそう、ヒロも大好きなblowing the windだからって、興奮しすぎ。どうせ寝てなかったんでしょ。で、私のアドバイスは役に立った? にしても、紙袋があって残念だったね」

そして、続く順子の発言に、衛は首だけで軽く頷いた。対処法を知っていたのだから、博美がこうなったのも初めてではないのだろうし、深刻な事態には発展しないと理解しているのだろうが、からかわれるのは気持ちの良いものではない。

(でも、博美楽しみにしててくれたんだ。ホントこいつ顔に出ないよな、そういうの)


「じゃぁ、俺帰ります」

「本当にありがとう。ほら、博美ちゃんもお礼言いなさい」

「ありがと」

 衛が暇乞いをすると、博美の母は彼女に衛への礼を促す。博美は先ほどの「お姫様だっこ」を怒っているのか、衛の眼を見ないまま礼の言葉を述べた。

「今日はちゃんと寝ろよ」

それに対して衛はそう言うと、名村家を後にした。


 しかし、衛が車に乗ろうとすると、家の中から順子が走り出てきた。

「ねぇ、衛君明日暇? ヒロのことで話があるの」

「そろそろ課題をやろうかと思ってるから、予定は入れてないけど」

ヒロのことで話といわれた途端衛は冷たい水をいきなりかけられた気分になったが、何とか平静を装って言葉を紡ぎだす。

「ヒロには聞かせたくないから、衛君ちに行っても良い?」

さらに、順子はそう切り出した。(やっぱり今日のことは俺の車の運転に差し障るから、あの時はああ言っただけで、ホントは……)

 衛は唇をぐっとかみ締めると、力強く順子に頷いた。

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