2 手紙の発見

 旅に出て、何もなかった。

 ラーベスは、ただ遠くへ来て、ぶらぶらしていただけなのだ。

 そんなある日。

 その日は、朝から曇っていて、灰色の空だった。食べ物も、もう半分もなく、ラーベスはいらいらしていた。

「何かないかな」

 どうしてこんなことを言ったのか、自分でもわからない。

 ラーベスは、ひたすら歩き続ける。

 午後から雨がふりだし、風も強くなって、彼はびしょぬれだった。そのくせ、「もうすぐ」とか「ここらへんだ」とか、ぶつぶつ言って、休もうとしない。


 どしゃ降りだった。

 雨の音以外は何も聞こえず、ラーベスは、ぼうっとしていた。ついに最初の稲妻がやって来た時、彼は、その光の中に真っ黒で巨大な木を見たように思った。電光に浮かび上がり、天にとどくほどの巨大な木を。

 あっと思うと同時に、それはすぐ脳裏から消え去り、瞬間、何かがバサッと頭にかぶさってきた。

 彼は、それをはずそうともがきながら、押し倒され、そして、そのままだった。

 バルクのふたが開いてしまい、四つ葉のフロルが、風に吹かれて飛んでいった。

 

 次の日。

 ラーベスは起きた。まぶしかったのだ。

 太陽が、もう真上だった。

 いつの間にか、とある木の横に寝ていて、それで雨を防いだようだが、それにしても全然ぬれておらず、体も元気だった。

「こんな木あったかな」と思ったが、気にしない。バルクも横にきちんと置かれている。中を見た。

「あーあ。食べ物、もう半分ないんだった。雨もうんざりだし、帰ろうか。おや、これは何だ」

 胸に、何かがかかっていた。

「これだな。きのう頭にからんだのは。息がつまっちゃったよ。そういえば、とても大きな木を見たような気がするけど」

 そんなものは、どこにもない。

 でも、となりに、こんな草地に、ただ一本木があるのもふしぎだった。

「と、この木ではないし」

 風が少し吹いて、枝がゆれた。

 ラーベスは、帰路についた。


 しばらく行くと、奇妙なことが起こった。さっきまで、ラーベスがいた所の木が、ゆらりとゆがんだかと思うと、パッと消えてしまったのだ。

 ラーベスは、歌を歌いながら歩いていて、それで、これに気づいたのは誰もいなかった。


 夕焼けのきれいな日。

 ラーベスは、ルウィンラーナに帰り着いた。

 最初に見つけたのは、ユティだった。庭先で、一人でリボンを編んでいたのだ。

「ラーベス……」

「はい、これ」

 ラーベスは、おみやげをあげた。

「ありがとう」

 ユティは、それだけ言うとにっこりして、みんなに知らせに行った。

 もちろんラーベスは忘れなかったのだ。彼女は、四つ葉のフロルがお気にいりだということを。

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