第1章 メッセージ
1 出発
この国の名は、ルウィンラーナ。
小人たちの国。
大陸上には、ほかの国もあるかもしれないが、誰も行ったことがないのでわからない。
そこで、ラーベスは旅に出ることにした。
「君が、旅へ?」
花にうもれて、昼寝をしながら、テッダが言った。
「ただ、行きたいんだ」
「へんなこと言ってないで、四つ葉のフロル探してくれない?」
と、ユティが言った。金色の髪をしたこの子は、この国では珍しい女の子だった。
それじゃ、とラーベスはフロル探しを始めた。見つけるのは得意だったし、ユティのこと、きらいではなかったから。
「はいこれ」
「まあ、ラーベス。いつもじょうずね。わたし、ずっとわからなかったのに」
とにかく、彼女、ユティは四つ葉のフロルさえあれば、気げんがいいのだ。
ユティが笑って、輝いてみえた。それで、ラーベスもちょっとうれしくなった。
ラーベスは、旅に出ることがやっぱりあきらめきれず、夕食の時もう一度言った。
「やっぱり行くよ」
「夜はどうするの? ケール一枚ないよ」もじゃもじゃ頭のアノネが言う。
「持ってくさ。食べ物もね」
「どこかで、さびしくなってもしらねえぞ。まあ、泣いたりするなよ」
それだけ言って、テッダは、また寝てしまった。
「テッダ、まじめにやって。あなた、いつも寝てばっかり」
「みんなに心配かけるのは良くないよ」くりくり目玉のボージャーも言う。
「そう、それ。シンパイなのよ」
ユティが、そこを強調して言った。
ラーベスは、それっきり黙ってしまった。
部屋の暖炉はやわらかく燃え、ぽっ、ぽっと静かな音をはぜている。たき木は、黄色の炎を上げ、そのまわりを茶色くかげらせていた。
ラーベスのひとみが、さびしげに見えた。
それで、夕食も終わりだった。
夜。やはり行きたいのだ。行かなければならないとまで、ラーベスは思った。
そして、もう話してもむだなことが、わかっていた。
――別に危険はない。すぐもどればいいのさ。
ラーベスは、ゆっくり起き上がった。そして、バルクに食べ物をつめ、レムルの残したマントをかぶると、部屋を飛び出した。
ところが、ケールを忘れた。しかたなく、ベッドにもどってそれも持ち出し、さあ、という時、いきなり腕をつかまれた。
ユティだった。
「やっぱり行くのね」
月明かりで、ラーベスの影がうなずいた。
「知ってたわ。ずっと起きてたの。これ持っていって」
ユティの手のひらで、四枚の葉が月にてらされていた。
「ありがとう。ユティ」
それだけ言って受け取ると、ラーベスは、そっと、部屋をぬけ出た。
外はひんやりして、風が少し吹いていた。ユティは、しばらく起きていたが、やがて、ぐっすり眠ったようだ。
こうして、第一の旅行者、ラーベスが生まれたのである。
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