第12話

「助かったんだな。良かった...!」

「あのね、ケイ...」

「いやぁ、もう、このまま死んでたら俺の夢と希望の詰まった楽しい楽しい異世界ライフが危うく幕を閉じてしまうとこだった!」

「ねえ、ケイ...」

「まったく...神様もはらはらさせやがって。いや、まてよ?こういうハラハラ感も異世界ライフには付き物なのかも?」

「ケイ!いい加減、現実をみて!」


パチンッ!!という音が聞こえると同時に頬に痛みが走る。


痛くないけれど物凄く痛い。


幼く小さな手は、俺の心に確かな痛みを与えた。


しかし、それ以上に俺の心を切りつけてきたのは目に入ってくる周りの景色。


目の前に広がるのは荒廃した土地。人はおろか、生命の気配すらしない。

ただひたすらに続く、茶色い世界。

太陽の様なものは見当たらないのに明るい。

気温は暑くもなく寒くもない。


しかし、恐ろしいほどの虚無感に襲われ、とてつもなく怖かった。


そして何故だか俺はこの場所が生理的に受け付けなかった。

というのも、先程から強い倦怠感を感じているのである。


怠くて、気持ち悪い。


「取り敢えず、これはどういう事なのか分かるか?」

「ボクにもわからないんだけど、ユグルドで死んだのは事実だよ」

「じゃあ、ここはどこなんだ...?」

「精霊郷にアクセス出来ないから、ユグルドとは違う世界みたいだね」

「というか、俺死んだのに契約解除されなかったのかよ?」

「うん。ケイと一緒に飛ばされてきちゃったみたい」

「あと、これ」

そう言ってスピリが差し出してきたのは、カンナさんが作ってくれたお弁当箱や水筒など、死んだ時に持っていたものである。


水筒は多めに用意してきたので、まだ2〜3L位ある。


「取り敢えず、どうすればいいんだ?」

「誰かいないか探すしかないね」


こうして俺達は人を探す事にした。


しかし、水しかないため、エネルギーを温存しなくてはならない。

できる限り荷物の量を減らすべく、空の水筒や弁当箱は置いていった。


しかし、人間は最低でも1.5Lは水分を摂取しなくてはならない。

つまり、今から少なく見積もって32時間以内に人間を見つけるか、オアシス的なものを見つけるかしない限り死ぬ。


精霊は物理的な外傷を受けない限り死ぬ事は無いらしいが。


俺は、倦怠感に押しつぶされそうになりながらも、一歩一歩歩みを進めていった。


しかし、見渡す限りの殺風景。紅い空に茶色い地面。


明らかに人がいる気配が無い。


「絶対人居ないよね!?」

「うん、ボクもそう思った。けどまあ、なんの情報も得られずに死ぬよりはいいと思うよ...」

「まあ、そうだけど...」


二人は歩く、歩く、歩く。


しかし、全く変わらない景色。体力だけがどんどんすり減っていく。



どのくらい歩いたのだろうか、もう、半日は歩いたかもしれない。


しかし、依然として変わらない景色に、腹が立ってくる。


足がつり始めている。1回足を前に出すのも辛い。


「そういや、お前疲れないのか?」

途中、途中に休憩を挟んではいるものの、やはりエネルギーの補給が無い状態での長時間の歩行はかなり辛い。


しかし、彼女は一向に疲労の色を見せないのである。


「ボク?うん、まあ、精霊に体力の概念は無いからね」


精霊の力恐るべしである。


「あ、あれ!!ねえ、ケイ見て!!」

スピリが声を上擦らせて言う。


スピリが指す方に視線を向けると、人間が倒れていた。


急いで駆け寄ると、倒れていたのは女性であることがわかった。それもかなり美人の。


女性は、長い銀髪で透き通るような白い肌をしている。目は閉じてしまっていてよくわからないが。


取り敢えず、女性の容態を確認する。息はしているようだ。


「あ、あの、大丈夫ですか?」

俺は女性に声をかける。

「み、み...」

女性は目をうっすらと開け、言った。


俺は、恐らく水だろう、と推測して残っていた水筒を差し出す。


女性は、少し起き上がりグビッ、グビッ、っと水を飲む。

余程喉が渇いていたのだろう。水筒1本飲み干してしまった。


「あ、ありがとうございます!」


水を飲み、元気になった彼女はお礼を言ってくる。


「いえいえ、その代わりと言ってはなんですが...」

「はい、命を助けていただいたのですから、私でよろしければ好きに使って下さい」

女性はそう言った。


「それじゃ、遠慮なくセッ...」

「ケイ?」

スピリがはそう言いながら、俺の頭にチョップを食らわせてくる。


「すいません、調子に乗りました」

「わかったならよろしい」

スピリが上から目線で言ってくる。腹立つ。後でなんかしてやる。


「お二人は仲がよろしいのですね」

女性は、少し笑いながら言う。

「ま、まあ...」


しかし、こんな馬鹿な事をやっている場合ではないのだ。

死は、刻一刻と迫ってきている。


「それじゃあ、いくつか質問があるので答えてください」

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