あやめ

TOKA

第1話

「こら、つまみ食いしないの」

ふふっ、懐かしいなあ。私もつまみ食いして、よく怒られたっけ。5歳になる娘のあやめを叱りながら、昔のことを思い出していた。


10月になると、地元ではお祭りが開催される。子供も大人も神輿を担ぎ、その年の米の収穫を祝うのだ。小学生までは子供神輿を担げるが、中学生になると大人神輿に参加させられる。大人神輿は大半が男性だ。足は踏まれるし、汗臭いし、踏んだり蹴ったりな一日になるのは目に見えている。

町中のお父さん、おじいちゃんが外に出ている中、家では太巻き寿司を作る。祝文字にしたり、桜や椿の模様にしたりと、出来上がりはまるで宝石箱のようだ。

神輿はどうしても担ぎたくない私は、寿司作りの手伝いをするようになった。

巻き方は祖母に教わった。まずは酢飯作り。そして卵を焼いて、前日から下処理をしていた色とりどりのかんぴょうを煮る。海苔の準備も忘れてはいけない。

巻簾に海苔を置き、酢飯を均等にのせる。紫色に煮たかんぴょうをひろげておき花びらを3本巻く。卵焼きにうすく酢飯をおき、中心に芯を立てておく。これにさらに花びらをのせ、酢飯をかぶせて山にして1枚の海苔をかぶせ、両側に青菜をおいて葉っぱの完成。

巻簾の両端を持って中心にむけて合わせ、白の酢飯を足して巻くと……

「ほら、あやめの完成だよ」

「わぁ!これ、あやめのおすしだ!!あやめもやりたい!やりたい!」

「わかったわかった。パパが帰ってきたら、びっくりさせようね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あやめ TOKA @mizupooooon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ