第2話 電車で寿司は食べません。
「電車……痴漢プレイし放題だね!」
「ここが人でごった返す駅前だと知っての発言か」
休日、俺は彼女とデートでもしようと駅までやってきた。
この辺りはまあまあ都会ではあるのだが、電車で20分も行けば都心に出られるし、地元でのデートは知り合いに会ったりすると面倒なので、少し遠出して都心まで行くことが多い。
とは言え、同じことを考える人間は当然たくさんいるようで、休日の昼ともなれば駅は人で溢れる。
「ふははははは、人が精子のようだ!」
「だからお前……お前すげぇな…」
彼女の名前は りっちゃん。俺と同じ大学の女子大生であり、寿司だ。
何を言っているのかと聞かれたら、俺も何を言っているのかわからないが、彼女は寿司なのだ。
今は人の姿をしているが、人に化けられる寿司だ。ちなみにイカだ。
頭がおかしいのかと思いたければ思うが良い。
自分でも散々疑ったからね自分の頭を!でも事実なんだからしょうがない!
「っていうか、お前今寿司じゃないのに何言ってんの…?」
寿司になると下ネタ言うタイプじゃなかったのか……。
「はっ、そう言えば……これはまさか……精神が寿司に浸食されてる…?」
「寿司に精神はねぇよ」
「あるよ!寿司にだって心は有る!カズくんの股間の息子が魂を持っているのと同じように!」
「………怖いこと言うな!?あるの!?俺のアレに魂があるの!?」
「うん、ちょっとせっかちな魂」
「……遠回しに俺が早いことを責めているのなら、ごめんと言うしかないわ」
「言って。毎回言って欲しい」
「本当にごめん。毎回だったとは知らなかった。毎回ごめん」
真顔で謝罪を要求されるとはね……!
駅前で軽く泣いた。
「で、どうする?これだけ混んでるとちょい面倒だなぁ」
なんとかメンタルリセットして話を元に戻す。
駅前はまだまだ混雑していて、この調子だと下手したら満員電車だ。
普段の通学ですら大変なのに、休日まで満員電車に乗りたくは無い。
「そうだ、こういうのはどう?私が寿司になるの、そしたらカズ君ひとり分のスペースだし電車料金も半分で済むよ」
「……それってなんかズルくないか?二人で乗るのに…」
「じゃあカズ君は、寿司を買って帰る時に駅員さんに「すいませーん、寿司の料金はいくらですか?あ、いくら、ってイクラじゃないですよ!寿司だけに?寿司だけにイクラはいくら?ってそんなバカなねぇ、あっはっは」って聞くの?」
「いや、聞くわけないだろ」
あと、イクラのくだりは絶対にいらないし、死んでも言わない。
「カズ君の言ってるのはそういうことだよ?私は寿司なの!人である前に寿司なの!寿司に電車賃を要求する駅員さんが居たら、SNSで晒してやると良いわ!炙られてしまえ!」
……炎上を上手く寿司に絡めようとして「炙り」って言ったんだろうけど、なんか凄い軽度な炎上という感じになったな。
問題発言のせいで炙られてる……わりと平気そうだ。
「ってか、そもそもお前が寿司になったとしてだ、どうやって持つんだよ。嫌だぞ俺、生で寿司持って電車に乗るの」
「肩にでも乗せたら?肩に寿司乗せてるのってお洒落じゃない?」
「それこそSNSに晒されるわ…」
「えー、見た―い!私、『電車で肩にイカの寿司乗せてるヤツ居たわwwwwwww』って大量に草生やされてるカズくん見たーい」
「なぜ見たいのかまず理由を説明してくれ」
「興奮するから!!」
「よーしわかったこの特殊性癖寿司が。醤油ぶっかけてやろうか」
「ああーん!かけてぇー!あなたの黒いのぶっかけてー!」
「なんなんだよお前のメンタルの強さ!!!」
周りの人達が凄い軽蔑の眼でこっちを見てくるよ!誰か助けて!!
「ああもう、じゃあ良いよそれで、ほら行くぞ。どんとこいSNS!」
もう覚悟を決めた。晒すなら晒せばいいさ!寿司の性癖を満たすために頑張るこの俺を!
「あ、待ってカズ君!一つ言い忘れてた事があるの!」
「なんだよ」
「たとえば、寿司になってる私が、電車の中で潰れるとするじゃない?」
「……うん?」
「ほら、満員電車だから、人に押されたりして、寿司なんて簡単に潰れたりするじゃない?」
「ああ、まあそうかな」
「その場合、私は人に戻った時にバラバラ死体になってるから気を付けてね」
「………やめてよー…急にすげぇ怖い設定ぶちこんでくるのやめてよー…」
「だいじょうぶ、人に戻る前に、ちゃんと寿司の形に握り直せば元に戻るから」
「…………俺、明日から寿司職人に弟子入りするわ」
結局、電車に乗るのはやめて、地元でのんびり食事して、夜は自宅で寿司を抱いたのでした。
いや、寿司っていうか、りっちゃんをね。
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