太一の問題(唐突に始まる総合格闘技入門)

第16話 唐突に行方不明になった葵とスパム

 翌日から葵は学校に来なくなった。

 漫然と授業を受けて、それから家に帰った。風邪でも引いたのかと思ってとりあえず葵の家に寄ってみるが応答はなし、返事もなし。


 その次の日は朝から行ってみたが、やはり応答なし。学校に行ってみたが、やっぱり今日も学校に来なかった。


 その次の日も学校には来なかった。なので葵の家に寄ったら、葵のお母さんが出てきた。


「あの……、葵さん元気ですか?」

「ごめんね、せっかく来てくれたのに。でも葵がどうしても太一くんには会いたくないっていうから、会わせるわけにはいかないの……」

「分かりました」

「あ、スパム持ってく?」

「はい。スパムください。弁当に使いたいんです」

 一度、おばさんと交渉した際にスパムをもらった。

 葵が来てからスパムをもらう機会はなかったが、こうして久々に来てみればスパムはくれる。どうやらこのスパムは懸賞で当たったものらしく周りに幾つか配ったが、なかなかなくならないらしい。もらったついでに葵のお母さんに、スパムを使った料理を数点レシピと作り方を授けた。えらく感激してくれたが、その日の夕食がスパムまみれになってなかなか色合い的にはグロテスクになった。うまかったと好評だったけど。

「待ってて、スパム持ってくるから」

「はい」

 そう言って、キッチンにおばさんが戻っている時にひょっこり出てきた葵と目があった。葵はそそくさと自室へと戻っていった。

 邂逅失敗。

「はい、スパムです」

「ありがとうございますスパム」

 おばさんは例によってスパムを十缶ほどくれた。ありがたい限りだ。

「それと、葵さんまた学校来てないみたいなんで、できれば来るように伝えてもらえればと思います。俺のことは避けてもらって全然構わないのですが」

「あれー? あの子また学校行ってないの? 朝も夜も出かけるからどっかには出かけてんだろうけど学校じゃないのねー」

 以前からこの人が学校絶対行けと追い立てなかったのもあって、強制力を求めるのは難しい。

「とりあえず伝えとくね。それとスパムがなくなったらまた来てね」

「はい、失礼します」



 翌日も葵は、学校に来なかった。

 比較的仲の良い椿に、話を聞きに行ってみることにした。

「葵ちゃん? え、昨日部活来たばっかりだよ」

「へ、マジで! あいつ今週入ってから一回も学校来てないから、メールとかしてねーかなーって聞きに来たら、え、部活出てたのマジかよ! すげーなあいつのクソ度胸!」

「まあ、でもなんか何かに怯えるようにコソコソやってきて何だろう? って思ってたけど、赤木くんを避けてたんだね。何か悪いことした? ん?」

 椿の口調は優しいのだが、この間振ったせいかものすごくプレッシャーを感じる。怖い。

「振られ……ちゃってな……」

「そうなの?」

「いや、正確には振ったのか……?」

「どっちなのよ」

 椿は、ドスの効いた声で聞いてくる。怖い。

「うん、まあその、俺たちは初めっから両思いで割とお互いのこと結構好きだったんだ」

「はい」

「でもなんかこうこのままの自分たちでは付き合えないって話になって」

「はい」

「ダメになりました」

「おい」

 椿にラケットを投げつけられて、俺の鼻っ柱に直撃した。

 衝撃にその場に崩れ落ちた。女の子って怖い。

「おう……」

「なんだそれは! お互いに好きで両思いで別れただと? 意味がわからないよ! あんたがそんなヘタレとはな!」

「すいません」

「赤木くんが、葵ちゃんについていけなくなるってのは何となく分かるんだけどね……。付き合えないところが、葵ちゃんも私も惹かれたところなのかもしれないし……」

「良くわからんのですが」

「分かる必要もないね。今はそこが葵ちゃんと私が一番嫌いなところでもあるんだから」

「うぅ」

 何か良く分からないけど、自分には問題があり、俺には全くの無自覚の問題で、それをかつては好きだったけど、二人からそこが嫌いと突き刺されている現状となる。まるで意味が分からない。

 ある一点をもって好きなところが嫌いなところになるなど。

「まあ、うちにはたまに来ているよ。ただ、絶対に赤木くんには教えないことにする。わかった?」

「はい」

 手厳しい。

 昔、ちゃらい友達から女は昨日まで味方でも翌日から敵になることがある。ということを教わったことがあるが、実際に目の前にすると結構辛い。

 次の手を打とう。

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