第5話 拉致、強制連行、そして、スパム
「おはようございます。朝です起きてください」
翌朝。
俺は、あまりにも葵に期待できなかったので、朝一番に葵の部屋に戻ってきた。おばさんに挨拶をして、迎えに来たと言ったら、どうぞどうぞと招き入れてくれた。
現在の時刻は七時四十五分。葵は、がっつり寝ていた。枕元に目覚まし時計があるのだが、アラームがかかる時間が十時半にセットされている。
そもそも葵に、朝起きる気が無かった。
葵は、うっすら目を開けると、俺のことを確認し、跳ねるように起き上がった。
「え! なんで太一ここにいんの! ねぇお母さーーーーーん!」
「アンタ学校行かないじゃない! 迎えに来たって太一くん入れない理由がないじゃない!」
リビングの方から大きな声で返された。
俺の背後におばさんが現れて、扉から顔だけ出す。
「じゃあ、太一くんお願いね。葵、朝ごはんは自分で用意してね。お母さんもう出るから」
と言って慌ただしく、玄関から出て行ったのだった。おばさんがあんまり家にいないから、葵は家でこうものびのびしていられるのだろうともぼんやり思った。葵の父親も葵が学校に行かないことを、そこまで悪いこととも思っていないのだろう。
「という訳で迎えに来た。弁当ももちろん作ったさあ、学校へ行くぞ葵」
「ヤ!」
「ヤ! じゃねーよ! 昨日の約束早速覆しているんじゃねーよ! じゃあ、分かった。お前今日来ないなら、俺二度とここに来ないから!」
「それはもっとヤダ!」
「だったら、とっとと支度しなさいよ! 四十分以内に出ないと遅刻するぞ!」
「うん……」
ものすごく気落ちしたような声で答えた。葵はとりあえず、布団から出ると布団を畳んで、押入れの中へとしまっていく。
「とりあえず着替えるからリビング行ってて」
「はい」
リビングにいく。おばさんが言った通り朝食は無かった。きっとおばさんも、ものすごく急いでいてそれどころでは無かったのだろう。
買い物に行く時間もないし、冷蔵庫にあるもので適当に作ろう。この家の人間にご飯を作ってあげる分には、冷蔵庫の中身を使っても問題は無かろう。
サラダはたくさんボウルに入っている。冷蔵庫の中に入っている簡単に使えそうな食材は卵と、スパム、ハムと、ベーコン、スパム、スライスチーズ、各種調味料あとスパム。スパムスパムスパム。スパムスパムスパムスパムスパームスパーーーームスパームスパーム!
もともとスパムを大量に使う家庭であるか、何かの懸賞か誰かからもらったかで大量にあるのだろう。
おそらく後者だ。でなければこんな大量のスパムを、ここにここまで持て余さない。どんな料理にもスパムがついてくるわけではないだろうし。
後で、おばさんに交渉して、いくつかもらえないだろうか。
とりあえずこの状況を見るに、スパムは使ってあげたほうが喜ばれるだろう。卵を二つ取り出し、スパムの缶を一つ取り出す。
コーヒーをすりきり三杯に対して520ml水をタンクに注ぐ。あいつが入れるコーヒーはしっかり濃いなら、それはおそらく分量通りにきっちりつくったものだろうと推測する。
パンをオーブントースターで焼き始める、スライパンに火をかけて温める。スパムを開封して適当な大きさにスライスする。ちょうどフライパンが温まってきたのでスパムを焼く。
その間に、電子レンジに冷凍された白米を入れて解凍していく。ボウルに卵二つを割り入れてかき混ぜる。スパムをひっくり返す。焼き色がついただろう頃合いにさらに一度とる。パンが焼けたとトースターが伝える。
二枚ほど、とって細かく刻んで卵に入れる。混ぜた卵の上から黒胡椒をかける、塩分はスパムが補ってくれるだろう。フライパンに軽くサラダ油を敷いて、卵を投入、オムレツを作り始める。フライパンの上でかき混ぜているうちに白米の解凍が終わった。卵が固まってきたら端っこにまとめてひっくり返す。裏面を軽く焼いて、ひっくり返しながら皿の上に盛り付けてケチャップを適当にかける。
解凍の終わったご飯をボウルの上に出す。とりあえず冷ます必要がある。
まず朝食の準備を完了しなければならない。パンを皿に出してバターと、数種類のジャムを取り出し並べる。オムレツも同様にならべ、サラダをボウルから取り出して、さらに盛る。ドレッシングの好みはわからないからいくつかこれも出しておく。コーヒーも多めに注いでおき、残りを俺の分としてもらう。
とりあえずテーブルのセットアップはできた。
「おはよー」
「テーブルの上に朝食は出来てるよ」
「はいー、うお、うまそうなオムレツが! いただきます」
解凍したご飯を混ぜて形を崩していく。そうしラップで一部を包んで固めていく。固めておいてさっき焼いたスパムを上に被せていく。スパムおにぎりが完成する。
缶一つ一気に使い切ろうと考えたせいかやや作りすぎたような嫌いがある。まあ、食べてくれるだろう。主に葵が。
調理が終わった調理器具を洗っていく。勝手に使っておいて、洗わないでおくなど失礼にもほどがある。とりあえず洗って乾燥棚に一時的に置いておく。ふきんは何を使っていいのか分からないから、キッチンペーパーで水滴を拭っていき元の位置に戻していく。
大体の片付けも終わったのでテーブルへいく。
「やっぱり作りたてはちょーうまいなぁ」
「それはどうも」
コーヒーは良い温度に冷えていて、すぐに飲めた。
「いつも、ジャムとドレッシングは同じ?」
「んー、まあだいたいそうね」
ジャムはマーマレードを使っていて、ドレッシングはゴマドレッシングを使っているということは覚えておく。次の機会はとりあえず、この二つをだしておけば良いだろう。
葵が朝食を食べ終わった。食べ終わった食器は葵がシンクにいれて水を張る。
「んじゃ、行きましょうか」
「ごめん、お腹痛くなってきた」
葵が、顔を青くして言った。
「それほんと……?」
「うそぴょん」
葵は、青い顔のまま言った。真顔である。心配した俺がバカだった。
「めっちゃ余裕あんじゃねーか! 行くぞ」
先に葵に靴を履かせて待ってもらう。それから、俺が靴を履く。まだ外に出たがらない葵の手を取って、強引に扉の外へと連れ出した。外の光は眩しくて、外に出た途端に日差しが肌に突き刺さってきた。
葵は、最初こそ抵抗したが、家から数十メートル離れるうちに俺の後ろを葵が歩いてくるようになった。
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