第4話 我が家族


今日も何の実りも無いまま帰宅。

「あら、お帰り

ご飯出来てるわよー」

母の九条さゆり。

病院の婦長をしている、おっとりとした母ではあるが病院では鬼と聞いた。

人の命を預かる仕事だし、怖いくらいが良いのかもしれない。

「おう、おかえりー」

父の九条やすし。

もう晩酌か、はげあがった頭にでっぷりとしたビールっ腹、おまけに屁がくさい。

いや、話で聞いて想像する十倍は臭い。

化学兵器化と思うレベル、俺はこれをOZガスと名づけたオヤジガスと言うわけだ。

で俺が母の味を堪能している時に必ず訊かれるのが「彼女出来たか? もしくは好きな人が出来たか?」だ。

絶対訊かれる、息子の恋バナを楽しみにし過ぎだろと嫌になる。

「出来るわけないだろ、この癖でさ」

「お前、癖が嫌だと言っているが立派な個性なんだぞ、その個性を受け入れてくれる子がきっといる」

「じゃあ、親父、代われたら代わってくれるか?」

「無理だ、代わったら父さん死んでしまう」

タンスに隠された大人の楽しみが親父を殺すわけか。

「とにかく、お前のその癖は今にきっとお前を助けてくれるはずだ」

「はぁ? 助けるって、どんな状況で…」

空気中を漂う刺激臭、まさか…。

「親父、まさか!」

「え? ああ、こいたよ」

何事も無いかのように言うが親父の屁は科学兵器なんだとあれ程、口を酸っぱくしたのにまだわからんのか。

エロがないといつもより早くリビングを抜け出せない。

食べたもの吐きそうだよ。

結局、助けてなんてくれない、屁で死にそうになっても、この癖は助けてもくれない。

青白い顔で二階の部屋へと向かう。

「あ、お兄ちゃん

おかえりー、かの」

「出来てない」

「ああ、そうなんだ」

みなまで言うな、答えで言葉を遮った。

「俺より、お前はどうなんだよ?

彼氏とか好きな人とかいないのか」

「えー、いないよ。

そんなのめんどうだし」

「面倒ね…、あのさ、頼むから郷田はやめろよ、お願いだから」

「郷田? ああ、空介くんか」

さほど、面識は無いはずだが年上の郷田を慣れた言い方で空介くん?

「なに、その言いなれた感じは」

「え? ああ、えっと、うんと

まぁ、いいじゃん、あはははは」

慌てた様子で葵は自室に閉じこもった。

この家族は絶対、何か隠している。

ここ最近、そう思う。

俺に関して重大な何かを隠していやがる。

しかし、尋ねても母はおとぼけで返し

父は屁で全てを遮り、妹は殻に閉じこもる。

一体、なんなんだ?

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