第3話 そして現在の俺

喫茶店「どぶろく」

全然、喫茶店として定着できない店名。

それもそうだろう、この店は元々は居酒屋だったのだから。

居酒屋を経営していた父から店を受け継いだのが高校時代の同級生である、郷田空介。

珍しい名前のゴリラだ、ゴリラ顔だ、ゴリラよりゴリラだ。

そのゴリラは事もあろうに居酒屋から喫茶店に改装した。

父親と大喧嘩してオープン時には晴れ上がった顔で接客していた。

名前のせいであまり繁盛しているとは言えない。

居酒屋時代の常連さんがちらほら来店しては

喫茶店で酒を頼む。

その度に特別に酒を提供すると言う、何だか

よくわからない店が俺と向井の行きつけの店である。

「空、いつものな」

俺は特に何をするでもないので昼間から

女っ気のないこの喫茶店で暇を潰している。

そして大学から逃げ出した向井と合流するのがいつも流れ。

「あのな、いつもの頼むのは良いんだが

コーヒー一杯無料サービスはオープン時の

サービスでもうやってないんだけどね」

「…へー、そう」

郷田の言葉を絶妙な間をおいて流す。

結果、コーヒー代を払わず帰る。

向井の荒業で郷田は泣き寝入りだ。

「もう、コーヒー代くらい払ってやれよ」

「あん、ここのコーヒーに?

ふざけんなよ、それよか空に妹とのデート許してやれよ」

俺には二つ下の妹がいる。

九条葵と言うのだが、兄である俺が言うのも

何だが妹は下手なアイドルより可愛い顔をしている。

街でスカウトされ続け芸能事務所の名刺で

神経衰弱できる枚数持っている。

そしてこの郷田空介は妹にお熱だ。

このゴリラ顔にお兄さんなんて呼ばれた日にはコイツを動物園に引き渡すつもりだ。

「ふざけんなよ、大事な妹を発情期のゴリラの飼育員にさせられっかよ」

「ひでえ言い草だな、それ」

「俺の妹とはいえ、あのゴリラすら恋してんのに俺は、いつまで…」

俯いて溜息を吐く。

「まず、その癖を治さないと始まらないよな

走ってばっかりなお前に付いていける彼女が

できるか?」

「マラソンランナーの彼女を探すか…」

「なんで治すと言う選択肢がないんだよ」

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