第2話 九条ハルの青春
祖父がヒーローで彼の言葉で俺の人生は
狂わされた。
俺は今19歳、今に至るまでどんな生活を送ってきたのか、恐らく想像もつかないだろう。
中学生時代。
丁度、異性に対して興味がわく年齢だ。
「おい、九条、来て見ろよ」
九条って言うのは俺のこと。
九条ハル、それが俺の名前だ。
中学生時代に必ず悪友と言う存在はいた筈だ。
そう言う奴に限ってやけにませていて、エロ本なんかを持ってくる。
「ホラ、見てみろよ! すっげえ、おっぱい
でかくねぇか?」
よりよって折りたたみグラビアを開いて
見せ付けてくる。
やばい、やばい、性欲が津波のように押し寄せてくる。
「…おい、九条、なにしてんの?」
「ふっ、いち、ふっ、に、ふっ、さん」
発散するには動く。
俺は教室の隅でスクワットしていた。
そう、脳裏に焼きついたグラビアが薄れるまで、ずっとだ。
そんな癖のせいで俺の運動神経は抜群に良かった。
特に得意としていたのは陸上。
なぜなら性欲が押し寄せてくるたびに走っていたからだ。
「九条、お前よく走っているが、陸上好きなのか?」
陸上部顧問にそう話掛けられたが、別に好きではない。
ただ、単に、性欲を発散していただけです。
なんて言えるわけなくて。
「そうですね、はい、好きです。えへへ」
なんて言った。
俺の頭がいけないんだ。
そんな想像してはイケナイのにも拘らず
大人な妄想してしまう。
あれ? 俺って実はドスケベ?
中学卒業時にやっと気付いた。
高校はスポーツ推薦で進学した。
そんなつもりないのに陸上での推薦。
それは仕方ない、陸上大会で得たトロフィーは飾りきれないほどあるのだから。
ちなみに卒業した中学にも幾つか。
まさか性欲発散する為に走って得てしまったトロフィーだと誰が思うだろうか。
それを見て「九条先輩みたいな陸上選手に」
なんて思う後輩がいたら、申し訳ない。
高校生になれば更に異性との関わりが深まる。
その頃に出来た親友が、いや悪友か?
向井タカ。
有名なセクシー男優の名前を合体させた
生粋のプレイボーイ、とは無縁な奴だ。
ただ、女好き、口も上手いせいか大抵ナンパに成功する。
突き合わされるのが俺。
向井曰く「お前、自分では分からないけど
イケメンな部類だからな? 鏡見てるか?
ぱちくりした目にシュッとした鼻筋、程よい
唇の厚さ、俺が女だったら惚れてる」
ノーサンキューだよ。
つまり、俺を利用してまでもナンパ成功を導きたいわけだ。
「えー。九条君ってめっちゃかっこよくない
やばーい」
そんな口調の女はだいたいスカート短い。
「向井、ちょっと」
決まって向井に耳打ちする。
「走りたい」
高校になっても直っていない。
むしろ走る回数が増えた。
よりよって制服フェチを発症した。
「お前、バカか! せっかくナンパ成功したのに走って全部を台無しにする気か!」
「じゃあ、せめて行く場所は運動公園で」
「みんな、カラオケ行こうぜー!」
初めて、親友に殺意を抱いた瞬間でした。
イエーイ、とか乗り気な声が遠く感じる。
異性とカラオケ。
ノリノリなパーティーチューンを選曲しては
振り付け付きで踊る。
ミニスカートで。
「向井、向井」
爆音のカラオケルームで向井を必死で手招きして耳を貸してもらう。
「走りたい、ものすごく走りたい」
向井の応えは「ふざけるな」
それからは「え! 地震?」と話題になる位に貧乏ゆすりが止まらない。
さすがに向井もヤバイと思ったのか提案した。
「ノリノリなロック歌って暴れて発散しろ」
確かに、それなら誤魔化せる。
悪知恵の働く奴だ。
「え? なに、これ入れたの誰?」
カラオケルームに響くのは重低音。
部屋全体が揺れるほどの重く激しいサウンド
俗に言うハードコア。
「うおおおおおおおお!」
もう、何語だかわからないシャウトにも似た
歌声でヘッドバンキングも交えて歌った。
飛び跳ねて歌った。
酸欠気味になろうとも、今、この歌だけが
俺を救う唯一の方法、だから魂を込めて
歌う、それしか出来ない。
「はぁはぁはぁ…」
歌い終え、性欲は嘘の様に解消できていた。
「えっと、次は誰?」
マイクを向ければポツンと向井だけが座っていた。
「良かったよ」
向井は拍手して大きく何度も頷いた。
そんな高校時代を経て、向井は大学進学。
俺は大学に行けば更に酷い有様になると進学は諦めた。
今はフラフラとプー太郎といったところか。
不思議と親は何も言ってこない。
むしろ、生きてきてくれてありがとう。とか
言ってくる。
正直、気持ち悪い。
今でも向井とはつるんでいる。
時折、高校時代に知りあった同級生の店で
何時間も居座って話している。
大体は俺の恋愛事情。
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