夢浮橋 その二十三
「この小君をあなたは見忘れてしまったでしょうか。私は行方も知れないあなたの形見として側に置いているのです」
などととても細やかに愛情を込めて書いてある。
このように綿々とした書きぶりは人違いだと言いようもないが、かと言ってまるで昔の自分とはすっかり変わってしまった尼姿を心ならずも見つけられでもしたらとその時の身の置き所のない恥ずかしさはどれほどだろうかなどと思い乱れて今までよりもいっそう暗い気持ちはなんとも言い表すすべもない。
さすがに浮舟の君は泣き出してひれ伏してしまった。尼君はなんとも世間知らずな人だと手を焼いている。
「どのようにお返事なさいますか」
などと責められて、浮舟の君は、
「今は気分がとても悪く、胸が書き乱されるように苦しいので、少し休んだあとですぐお返事を申し上げます。昔のことを思い出しても少しも覚えていることがなく、夢のような出来事とおっしゃられても不思議なばかりでどんな夢だったのかと私にはわかりません。
少し気分も落ち着きましたらこのお手紙なども納得できることもあるかもしれません。今日のところはやはりお持ち帰りくださいまし。もし人違いでもあればさそ不都合なことでしょうか」
と手紙を広げたまま尼君に押しやるのだった。
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