総角 その一〇八

 薫の君は、



「ああ情けない。どうしてこんなにひどいと知らせてくれなかったのか。このところ冷泉院でも宮中でも呆れるほど御用の多い時で何日もお見舞いできなくてどんなに心配だったことか」



 と言って、先日の部屋へ通った。大君の病床の枕上で近々と声をかけるが、大君は声も出ないほどの弱りようで、返事もできない。



「こんなに重態になられるまで誰一人として知らせてくれなかったとはなんという情けない話だろう。これほどご心配している甲斐も何もないではないか」



 と恨み、例の山の阿闍梨をはじめおよそ世評の高い効験のある僧たちを残りなく大勢招いた。御修法や読経を翌日から始めるつもりで、京から家来たちも大勢馳せ集まって上下を問わず人々が忙しく働いているので、これまでの心細さも嘘のようで頼もしく思うのだった。

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