総角 その八十七
宇治の山荘では匂宮の一行がとうとう素通りして帰っている気配も察して前駆の人々の声が次第に遠ざかっていくのを聞いてたまらなく思う。心づもりして待っていた女房たちも何という残念なこととがっかりしている。大君はなおのこと気を落とし、
「やはり噂に聞く通り月草の色のように移り気なお方だったのだ。女房たちのひそひそ話を小耳にしたところでは世間の男というものは平気でよく嘘をつくそうな。好きでもない女をさも好いているように口先でうまくあれこそだますものだとか。ここに仕えているつまらない女房たちも昔話としてそんなことをしゃべっている。そんなしがない身分の者の間にはそうした怪しからぬ料簡の男もいるかもしれないけれど、高貴な身分のお生まれともなれば外聞や世間の思惑も憚られて何事につけてもそんな軽々しいお振舞はできないものと思っていたのに、実はそうとも限らなかったのだ。匂宮は浮気なお方だということを父宮もお耳になさっていて、こんなふうに私たちとの結婚などは考えてもいらっしゃらなかったのに。匂宮が不思議なくらい熱心に情のこもったお手紙を度々およこしになり、あげくの果てには思いもかけず中の君にお通いいただくようになってしまった。それがまた辛い悩みを増やす種になってしまったのは何とも情けない話だこと。それにしてもこんな見掛け倒しの匂宮の浅薄なお心をあれほどお取り持ちなさった薫の君は何とお思いになるだろうか。この邸には特に気兼ねをしなければならないような女房はいないけれど、それでもそれぞれ内心ではどう思っていることやら。本当に物笑い名話でみっともないこと」
と思い悩んでいるうちに気分も悪くなって体の具合がとても悪くなったのだった。
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