総角 その七十九

 十月の初めころ、薫の君は、



「宇治の網代も見ごろでございましょう」



 と匂宮にすすめて紅葉狩りの手筈を整えた。宮家に仕える内輪の人々や親しくしている殿上人だけをお供にできるだけこっそりとと思っていたのだが、何としてもたいした威勢なので自然大仰なことになってしまって夕霧の右大臣の子息の宰相の中将も来た。その他は薫の君だけが上達部としてお供する。公卿以外のお供は大勢だった。


 あの宇治の山荘には、薫の君から、



「匂宮はきっとそちらで中宿りなさるでしょうから、そのおつもりでいらしてください。去年の春も花見にそちらへお伺いした誰彼がこんなついでにかこつけて時雨の雨宿りに紛れて姫君のお姿を覗き見したりするかもしれませんよ」



 などとこまごま注意した。


 山荘では御簾をかけ替えるやらあちらこちらの掃除をするやら岩の陰に散り積もった紅葉の朽ち葉を少し取り除け、遣水の水草を払わせたりする。風情のある摘みの木の実や酒の肴などと一緒に必要な手伝いの人まで薫の君から送ったのだった。

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