総角 その八十

 こう何から何まで世話になるのはありがたく思う一方で、大げさになり奥ゆかしさがないようだが、この際どうしようもない。これも前世からの因縁なのだろうと大君はあきらめて迎えの用意をして匂宮を待ち受けた。


 匂宮の一行が宇治川を船で上り下りして面白く音楽の遊びをする音色が聞こえてくる。その様子が霧の向こうには遥かにぼんやり見えるのを若い女房たちは川の見えるそちらに出て行って眺めている。匂宮本人の姿はそれとはっきりわからないが、御座船の屋根の飾りにはまるで錦かと思う紅葉を噴いてあり、思い思いに吹きたてる笛の音色が風に乗ってくるのが騒々しいほど賑やかだ。


 世間の人々が匂宮になびきより、仕える様子がこんなお忍びの道中にも格別威厳があり、あたりを払う威勢なのを見るにつけても姫君たちは本当に年に一度の七夕の逢瀬でもいいからこんな素晴らしい彦星の光こそ待っていたいものだと思うのだった。

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