総角 その七十二
九月十日ごろのことなので、宇治の野山の紅葉の景色も思いやられるので、時雨模様であたりも暗く、空に広がる叢雲も恐ろしそうな夕暮、匂宮はひとしお気持ちも落ち着かず物思いに沈み、どうしたらいいだろうと自分で決心しかねて宇治への出かけをためらっている。ちょうどそこへ薫の君がそんなことだろうと察して来た。
「〈初時雨ふるの山里いかならむ〉と古歌にも言いますが、宇治ではどうしていらっしゃるやら」
と水を向けて差し出す。匂宮はすっかり喜び、一緒に行ってほしいと誘う。いつものように一つ車に同乗して出かけた。
宇治の野山を分け入るにつれて匂宮はこんな淋しい山里で自分以上にどんなに深い物思いに沈んでいるだろうと中の君の心のうちをひとしお思いやる。道中も匂宮はずっと中の君が愛しくてならないという話ばかりするのだった。
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