総角 その五十

 薫の君は、



「ああ、恋しい人よ、あなたのお心に従うことが誰にも負けない私だからこそこうまで愚かしいものになってしまったのです。そんな私を言葉にできないほど憎く疎ましくお思いのようですから、もはや私も言葉もございません。もうとてもこの世に生きて行く気持ちもなくなりました」



 と言って、



「では、このまま襖越しにでもお話しいたしましょう。あんまり一方的ににべもなく私をお捨てにならないでください」



 と大君の袖を放したので、大君は奥へ逃げてそれでもさすがにすっかり入ってしまわないのを、薫の君は何といとしい人だろうと思うので、



「せめてそこにいらっしゃるほのかな気配だけでも慰めにして夜を明かしましょう。ゆめゆめそれ以上のことは」



 と言い、それきりうとうとともせず、いっそう激しい川瀬の水音に目も冴えて雌雄が別に眠るという山鳥のような侘しい気持ちで夜半の嵐を耳にしながら長い夜を持てあましているのだった。

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