総角 その四十八

「実は匂宮が後を追っていらっしゃいましたので御断りもできず、ここにお連れしています。ご挨拶もせずこっそり中の君のところにお忍びになられたようです。こちらの賢ぶった弁が抱き込まれてお味方したのでしょう。どうやら私はどちらからも愛想を尽かされ、世間の物笑いにもなりそうな立場ですね」



 と言うので、大君はあまりにも心外な成り行きに目も眩むほど嫌な気分になり、



「こうまであらゆることに世にも珍しいほど悪い企みをなさるお方とも知らずにお話にもならぬ浅はかさもさらしてしまった私を軽蔑していらっしゃるのですね」



 と言いようもなく口惜しく辛がっている。



「もう今更何を言おうと詮無いことです。このお詫びは幾重にも申し上げますが、それでも足りなければ私をつねるなりひねるなりなさってください。あなたは高貴なお方のほうにお心をお寄せのようでしたが、男女の縁などと言うものはまったくままならぬもののようですから匂宮の魅かれていらっしゃったのは別のお方だったのをお気の毒に存じます。それにつけても自分の恋の叶わない私は身の置き所もなく気がふさいでなりません。やはりこうなってはもうどうにもならないものとあきらめて私にお心を傾けてください。この襖の錠がいくら固いといったところで私たちが本当に清い仲などと察している女房などいないでしょう。私を案内役とお誘いになった匂宮だってまさか私がこんなやるせない胸もつぶれる思いで夜を明かしていようとはご想像もなさらないでしょう」



 といい、襖も引き破りかねない激しい様子なので、大君は言いようもなく不愉快だが、とにかく薫の君をなだめようと心を落ち着かせた。

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