総角 その七

「匂宮と中の君の御縁談についてもこれほど私が申し上げているのにご信用なさらず、一向に気をお許しにならない様子なのは内々にはほかのお相手をひそかに考えていらっしゃるご事情があるのかもしれませんね。さあ、本当はどういうことなのですか」



 と嘆かわしそうに言う。こんな場合、世間によくいる心がけの悪い女房などから小憎らしい出過ぎた差し出口をして追従の相槌を打ったりするようだが、この老女の弁はまったくそんな女ではないので、心の内では姫君たちにとってはそれぞれ申し分ない縁談なのにと思うが、



「姫君たちはもともとご覧の通り普通の人とは違ったご性質でいらっしゃるせいでしょうか、どうして、どうして、世間並みにあれこれ結婚についてお考えになったりするご様子はございません。こうしてお仕えしている私たち女房の誰にしましても亡き宮の在世の当時でさえ何の頼りになるところがあるとも思ってはおりませんでした。ですから自分がこんなところで朽ち果てたくないと思うものはそれぞれにお暇をいただいて出てゆきました。昔から代々宮家に奉公しているものもほとんど見限り去っていったお邸に、まして八の宮もお亡くなりになってしまった今ではこれ以上しばらくでもここに残っているのはいやだというような愚痴をこぼしては、


『亡き宮のご在世の間こそ皇族としてのご身分柄不釣り合いな御縁談では姫君がお可哀そうだなどと昔気質の律儀なお考えからためらいにもなられましたが、今はこうして他に頼る人さえなくなった身の上ですからたとえどのような結婚をなさって身の振り方をお決めなさろうとそれをむやみに批難するような人はかえってものの情理もわきまえない取るに足りない連中でして、そんなものの言うことは聞き入れなければよろしいのです。誰が一体こんなひどいありさまで一生お過ごしになることができましょう。松の葉を食べて修行する山伏でさえ生きている自分の身体が捨てがたいからこそ仏の教えもそれぞれことさらに流派を立てて修行するようでございます』


 などと怪しからぬことを姫君たちに申し上げましたので、若いお心では何かとお迷いになられるようなこともいろいろおありだったようですが、結局お志をお曲げにならずせめて中の君だけでも何とかして人並みに幸せにして差し上げたいと大君はお考えのようでございます。こうして山深くお訪ねくださいますあなたさまのご親切は姫君たちも長年拝見していらっしゃいまして、他人のようにはお思いにならず、今では何かにつけてあれこれと立ち入ったことまでご相談なさるようにお見受けします。どうやら中の君のほうをあなたさまがご結婚の相手としてお望みくださるならと大君はお考えのようでございます。中の君は匂宮からのお手紙などもちょうだいしていらっしゃるようですが、決して真面目なお気持ちからではないだろうと大君はそう仰せのようでございます」



 と言うのだった。

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