椎本 その二十九

 八の宮の御忌みも明けた。悲しみは尽きないとしても限度があるものだから、姫君たちの涙も少しは乾く間があるだろうと察して、匂宮は綿々と長い手紙を書いた。時雨がちのある夕暮に、




 牡鹿鳴く秋の山里いかならむ

 小萩が露のかかる夕暮




「このあわれ深い空の景色にも素知らぬ顔をなさるのはあまりにひどくはないでしょうか。古歌にもあるように〈枯れゆく野辺も〉とりわけもの悲しく眺めずにはいられない時節ですのに」



 などと書いてある。大君は、



「本当にあまりにもものの情趣もわきまえないようにたしかに失礼が度重なってしまったので、今度はやはりお返事は差し上げなさい」



 と中の君にいつものようにすすめて書かせるのだった。

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