椎本 その二十七

 薫の君は八の宮の訃報を聞き、とても張り合いなく残念でたまらず、もう一度ゆっくり会って話したいことがまだまだたくさんあったのにと思う。それにつけても人の世の無常がつくづく思い続けられて泣く。八の宮が生前、



「もうお目にかかれないかもしれません」



 などと言っていたが、いつも八の宮は心の中で朝生きていても夕べには死ぬ命かもしれない無常の世のはかなさを人一倍強く感じていた人なので、そうした言葉も耳慣れてしまって気にもかけず、まさか八の宮の命が昨日今日のものとは思わず、油断していたのをかえすがえす残念に悲しく思うのだった。


 阿闍梨のもとにも姫君たちにも丁重な弔問の手紙を差し出す。薫の君以外にはそうした弔問の見舞いなど届ける人もいない境遇なので、姫君たちは呆然自失の悲しみのうちにもこれまでの年月の薫の君の並々ならない配慮やこまやかな親切が改めて身に染みてよくわかる。


 普通の親子の死別さえその折にはまたとなく悲しみ、誰もが悲嘆に暮れ惑うもののようなのに、まして心を慰めようもない心細い身の上の姫君たちはどんな気持ちが過ごしいぇいることだろうと薫の君は推察して追善の法事などのあれこれに必要な費用などを見積もって阿闍梨へ届けた。


 八の宮の邸のほうにも例の年老いた女房たちへという名目にして、誦経の布施なども心遣いして贈るのだった。

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