椎本 その二十七
薫の君は八の宮の訃報を聞き、とても張り合いなく残念でたまらず、もう一度ゆっくり会って話したいことがまだまだたくさんあったのにと思う。それにつけても人の世の無常がつくづく思い続けられて泣く。八の宮が生前、
「もうお目にかかれないかもしれません」
などと言っていたが、いつも八の宮は心の中で朝生きていても夕べには死ぬ命かもしれない無常の世のはかなさを人一倍強く感じていた人なので、そうした言葉も耳慣れてしまって気にもかけず、まさか八の宮の命が昨日今日のものとは思わず、油断していたのをかえすがえす残念に悲しく思うのだった。
阿闍梨のもとにも姫君たちにも丁重な弔問の手紙を差し出す。薫の君以外にはそうした弔問の見舞いなど届ける人もいない境遇なので、姫君たちは呆然自失の悲しみのうちにもこれまでの年月の薫の君の並々ならない配慮やこまやかな親切が改めて身に染みてよくわかる。
普通の親子の死別さえその折にはまたとなく悲しみ、誰もが悲嘆に暮れ惑うもののようなのに、まして心を慰めようもない心細い身の上の姫君たちはどんな気持ちが過ごしいぇいることだろうと薫の君は推察して追善の法事などのあれこれに必要な費用などを見積もって阿闍梨へ届けた。
八の宮の邸のほうにも例の年老いた女房たちへという名目にして、誦経の布施なども心遣いして贈るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます