椎本 その二十四

 八月二十日頃のことだった。たださえまわりの空の景色も一段ともの悲しい秋の季節に、姫君たちの心は朝夕、霧のようにたちこめた憂慮が晴れる間もなく深い物思いに沈み込んでいる。


 有明の月がとてもはなやかにさし上って宇治川の水面も冴え冴えと澄み渡っていた。姫君は山寺のほうに向いた蔀戸をあげさせて外を眺めていると、山寺の鐘の声がかすかに響いている。夜も明けたのだろうとそれを聞いているところへ人々が来て、



「宮はこの夜中ごろにお亡くなりになりました」



 と泣く泣く言う。


 どうしているのかといつも心に案じ続けて忘れるときもなかったものの、はっきりと逝去の知らせを聞くと、あまりの悲しさにただもう呆然としてしまい、今までにもましてこうした悲しさには涙さえどこかへ行ってしまったのか、気もそぞろにただうつ伏しているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る