椎本 その二十三

 それから二、三日経っても八の宮は山から下りてこない。いったいどんな様子かと度々使いを立てたが、今度は口上で、



「格別そう重態というわけでもありません。どこということもなく苦しいのです。少しでも楽になったらそのうちに何とか我慢して帰りましょう」



 と人に取り次がせて口伝えで返事する。


 阿闍梨はぴったり側に侍って看護している。



「ちょっとした軽いご病気のようにも見えますけれど、もしかしたらこれがもう最期になられるかもしれません。姫君たちの身の上については何も心配になってお嘆きなさることはございません。人は皆、持って生まれた宿縁というものがそれぞれ異なっておりますので、お考え通りになられるとも限りません」



 と阿闍梨はいよいよこの世の恩愛の執着を捨てるようにと諭して、



「今更山をお下りなさいますな」



 と諫めるのだった。

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