椎本 その九

 藤大納言が都から帝の命令によって迎えに来た。それにつれて人々も大勢来て、何かとにぎにぎしく先を争うように人々は帰る。若い人たちは名残も尽きず、心残りで振り返ってばかりだ。


 匂宮はまたいつかよい折を見つけてと思う。ちょうど花盛りで四方に立ち込めた春霞の景色も美しいので、漢詩も和歌も皆の作品はたくさんあったが、面倒なのでざわざわ聞いておくこともしなかった。


 何かと落ち着かなくて思うように姫君に手紙を差し出せなかったことを匂宮は残念に思い、その後は薫の君の手引きがなくても姫君への便りは始終するのだった。


 八の宮は、



「やはりお返事は差し上げなさい。ことさらに色めいたお手紙といった扱いはしないほうがいい。なまじそうするとかえって気を持たせる種にもなるだろう。たいそう色好みな宮でいらっしゃるから、こんな姫たちがいるとお聞きになれば捨てはおかれないという、それだけのお遊びごとにすぎないのだろう」



 と返事を勧める。そんな折々は中の君が書く。大君は慎重で冗談にもこうした手紙に手を染めようとはしない用心深い人柄なのだった。

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