橋姫 その四十八

 薫の君は、



「まあいい。どうやらこの昔話はいつまで聞いてもきりがなさそうだ。またいつか誰にも聞かれない安心なところでお話することにしましょう。小侍従とかいった者は、かすかに覚えているところでは私が五つ六つの頃だったか、急に胸を病んで亡くなったと聞いています。こうしてあなたとお会いすることがなかったら実の父親を知らないという罪重い身のまま終わってしまうところでした」



 などと言う。


 小さく固く一緒に巻き合わせた黴臭い古い手紙の数々を袋に縫い込んであるのを、弁の君は取り出して薫の君に差し出す。



「これはあなたさまが処分してくださいませ。衛門の督が『自分はもうとても生きていけないから』とおっしゃって、この手紙を取り集めたものを私にくださいました。小侍従にまた逢えた時に間違いなく女三の宮さまのお手許にお届けしていただこうと思っておりましたのに、とうとうそれきりで別れてしまいましたのも、私事ではございますが、いつまでも悲しくてなりません」



 と言うのだった。

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