橋姫 その四十七

「殿がお亡くなりになった騒ぎに引き続き、私の母も病気になり、間もなく死んでしまいましたので、私はいっそう悲嘆にくれまして、喪服を重ねて身にまとうことの悲しさに浸っておりますうちに長年ろくでもない男が言い寄っておりましたのに騙されまして、西海の果てまで連れて行かれましたので、あなたさまのことをはじめ京のことはさっぱりわからなくなりました。その夫も向こうで死去しました。


 それから十年ほど経ち、まるで別世界のような気持ちのする京にのぼってまいりました。こちらの八の宮には私の父が八の宮の北の方の母方の叔父という縁続きで、幼いときから出入りさせていただいておりましたので、こうしてお世話になっております。今はもうこうして人並みに世間に顔を出せる身でもございませんので、本来なら冷泉院の弘徽殿の女御などは亡き殿の妹君ですから、昔からよくお噂をうかがっておりましたので、そちらに御すがりすればよろしかったのですが、気後れがしてまいれませんでした。それでこうして奥山に隠れた朽ち木のような身になっているのでございます。小侍従はいつ亡くなったのでしょうか。あの当時、若盛りと思われた人々は数少なくなってしまいました。この老いの末に、多くの人々に後れております命を情けないと思いながら、それでもまだこうして生き永らえているのでございます」



 など言ううちに、例によって今夜もまた明けてしまった。

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