橋姫 その十五
この手紙の使いを先に立てて、阿闍梨は八の宮邸に行った。普通の身分の人の当然あっていいお見舞いの使いでさえ、めったに訪れない淋しい山蔭の山荘へ、消息をもらったのはとても珍しい出来事なので、八の宮はすっかり喜び、場所柄にふさわしい酒肴を用意したり、山らしくもてなす。冷泉院への返事は、
あと絶えて心すむとはなけれども
世をうぢ山に宿をこそかれ
とばかりで仏道修行のことは謙遜して書かないので、やはりまだ今も世間に恨みが残っているのだろうと見た冷泉院は気の毒にと同情する。
阿闍梨は薫の君が道心深そうにしていることなどを八の宮に話して、
「薫の君は、『経文などの真髄を勉強したい気持ちが幼時から深かったのですが、仕方なく出家もできず、俗世に暮しているうちに公私ともに忙しくなって開け暮してきました。そのうち自分からわざと引きこもってひとり経文を習い読んでいたのです。どうせこれといったこともないこの身なのですから世間に背を向けて暮らしていても誰に遠慮もいらないのですが、自然に仏道修行も怠り、俗事に取り紛れて日を過ごしてきました。そんな時、はからずも八の宮の世にも珍しいお暮しぶりを人伝にお聞きしてからは、このように心からお頼りしているのです』など、熱心に私に話されました」
などと言うのだった。
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