橋姫 その十二
この阿闍梨は冷泉院にも親しく伺候してお経など教えている人だった。京に出たついでに冷泉院に伺っていつものように院がしかるべ経典を見ての御下問に答えるのだった。阿闍梨はそうしたある折に、
「八の宮は実に聡明なすぐれた人で、仏教の学問にも造詣が深く、お悟りも深い境地にお達しでいらっしゃります。こうなるべき前世からの仏縁をもってお生まれになられたお方なのでしょうか。お心深く悟り澄ましていらっしゃる様子はこれこそ真の聖僧のお心構えと拝察されます」
と言う。
「まだ剃髪はなさらず、お姿は俗世のままでいらっしゃるのか。『俗聖』とかあの宮のことをここらにいる若い者たちはお呼びしているようだが、殊勝なことだね」
などと冷泉院は言う。宰相の中将薫の君もそのとき御前に控えていて、
「自分こそこの世を実につまらない味気ないものとよくわかっていながら勤行なども人目につくほども勤めず、惜しい月日を無為に過ごしてきてしまった」
と人知れず心のうちに思いながら俗体のまま心は僧になっている八の宮の心構えはどういうものかと意味をそばだてて聞くのだった。
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