橋姫 その十三

 阿闍梨は、



「八の宮は出家の本願はもともとおありだったのですが、ちょっとしたことにお心がためらわれて今となっては可愛そうな姫君たちの身の上を案じてとても見捨てにはなれなくてとお嘆きでいらっしゃいます」



 と言う。


 僧の身とはいえ、さすがに音楽の好きな阿闍梨で、



「なるほど、確かにこの八の宮の姫君たちが合奏なさるお琴の音色が宇治川の川波の音に競って聞こえますのはまたとなく結構な風情でして、これこそ極楽というものかと思いやられます」



 と古風なほめ方をしますので、冷泉院は微笑み、



「そんな聖僧のような人のところで大きくなられた姫君ではこの俗世のことなどはほとんどお出来にはならないだろうと想像されるのに、お琴がお上手だとはそれはまた面白いね。八の宮が心配のあまり姫君を見捨てては出家できないとその処置に困っておられるらしいが、もし少しでも私のほうが後に生き残るようなら私に姫君をお譲りくださらないだろうか」



 などと言うのだった。

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