竹河 その六十五
夕霧の左大臣の子息の宰相の中将に昇進したもとの蔵人の少将は大饗の日の翌日、夕方になって玉鬘邸に来た。御息所が里下がりしていると思うと、ひどく緊張しきって、
「朝廷で人数に入れてくださった昇進の喜びなどは私は何とも思いません。それよりは私の恋が叶わなかった嘆きばかりが年月が経つほど気の晴らしようもないことでして」
と涙をおし拭うのもいかにもわざとらしく見える。年は二十七、八歳のまさに若盛りの瑞々しさで華やかな顔立ちだ。玉鬘は、
「困ったお坊ちゃんだこと。世の中は何でも思い通りになるものと思いあがって官位のことなどに無関心で昇進もありがたいとも思わずに暮らしていらっしゃるなんて。亡き髭黒の太政大臣がご存命だったら我が家の息子たちもきっと女のことなのでこんなにつまらなく心を悩ませていたことでしょうよ」
とさめざめ泣く。
子息は右兵衛の督と右大弁で二人ともまだ参議ではないのを玉鬘に君は情けないことと思っているのだった。
藤侍従と呼んでいた三男の人は今は頭の中将になっている。年齢から言えば不足とは言えないが、昇進が人より遅れていると嘆いている。
宰相の中将のほうは何やかやともっともらしい口実をつくって御息所にまだ言い寄ってこようとしているのだった。
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