竹河 その五十五

 髭黒の太政大臣が在世ならだれも中の君を軽んじたりはしないだろうになどと玉鬘の君は悲しくなる。


 大君は美人の噂の高いきれいな人だと帝は耳にしていたのに、大君は院のほうへ行ってしまい、その代わりに中の君を出したのを幾分不満のようだったが、この中の君もとても嗜みが深く、奥ゆかしい態度で宮仕えをしていた。


 玉鬘の君は出家しようと思ったが、子息たちが、



「まだあちらこちらと姫君たちのお世話が必要でしょうから仏の勤行も落ち着いてお出来にならないでしょう。もうしばらくしてお二人のすっかり落ち着かれるのをお見届けになって、どこからも非難されるところがなくなってから一筋に仏道に専念なさいませ」



 と言うので、出家のことは思いとどまり、宮中にはお忍びで時々参内するときもあるのだった。

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