竹河 その五十四

 今度は帝が亡き髭黒の大臣の意志を考えて、ずいぶん昔の前例などを引き合いに出して尚侍を譲る許しが出て、実現した。


 この中の君の前世の因縁によって、玉鬘の君が長年願っていた役辞職の許しがやっと叶ったのだと見える。


 こうして中の君が気兼ねなしに宮仕えするようにと玉鬘の君は考えるにつけても、蔵人の少将のことが気の毒でならない。



「母雲居の雁からわざわざ大君のことを蔵人の少将にと頼まれたときに、代わりに中の君のことを頼もしそうに匂わせたこともあったのに、その中の君までこうなってしまって雲居の雁は何とお思いになることか」



 と気にしている。次男の右中弁を使いにして、他意のないことを夕霧の右大臣に言う。



「帝からこうしたお話がございましたので、姉妹ともむやみに高望みのように世間に取沙汰されるのもどうかと思われて、困惑しております」



 言うと、夕霧の右大臣は



「帝の御不興、御立腹のことはごもっともと存じます。尚侍という公の官職にありながらあなたのように宮仕えなさらないのはよろしくないでしょう。中の君出資をすぐご決心なさるべきです」



 と言う。またこの度は明石の中宮の内意をうかがってから参内するのだった。

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